ドリーム小説












それは、
夜明け前の空の色
それは、
深い深い光も届かないほどの深海の色
宝石のように、色を変えるその緑を___

いとおしいと、思ったんだ。






「お、ろしてくれません?!」

突然ぐるりと変わった視界。
非常に不安定な空間。
体に感じる慣れない温もり
それらに対してあわてて発した声。
けれどその原因である彼は返事を返すどころか視線すらくれないまま。
すたすたと迷いなく足を進めていく。

膝裏と背中から肩にかけて感じる力強い温もり。
不安定なはずなのに、その軸はまるでぶれない。

この体勢の名前を私は知っている。
女の子ならばだれもがあこがれる___
___お姫様だっこ、だ。

だがしかし、だが!しかし!それはこんな往来でやってほしいものではなかった!
しかも!見知らぬ相手に!
こんな意図しないタイミングで!

一応女子としてそれとなくあこがれていたシチュエーション
それがこんな形で裏切られようとは、いったい誰が思っていただろうか。






___事の起こりは数十分前

バイト終わりのくたびれた体を引きずりながら、家に帰ろうと歩道橋を上っていた時。
前から歩いてきた男性にふと眼を奪われた。
全身黒を纏ったニット帽の男。
たばこを吸いながら、ゆるりとした足取りでこちらにむかってくる。
背の高い人だなぁ。
歩道橋の階段で前から来る相手に対してはじめに思ったのはそんなこと。
全身黒を纏っている中、そのたばこの火の色が___赤だけが色づいて見えて。

すれ違うその間際、たてられた襟と、ニット帽の間の瞳が___一瞬だけ、みえた。

引き込まれそうなほどに深い、緑色

それが微かに私をみた

どくり

鳴り出したのは、自分の心臓の音。
縫い止めるように、その緑は深く私の中に色を残して。

___するり、それがはずされたことに。

ほっとしたような、残念なような。
そんな気分になって。

一つ、息を吐く。

と、すれ違う最後。
彼の纏うコートの裾がひどく不自然に、ぶれた。

え、と思うよりも先に反射的にのばした手、振り向いた体。

振り向いた眼は、彼の傾いでいく体をとらえた。
伸ばした手は彼の腕を、つかんで。
反対側の手で、歩道橋の錆び付いた手すりを握った。

けれど、自分よりもずっと大きなその体を引き留めることなど、できるはずもなく。

少しだけ勢いは弱まったけれど、傾いていく体はそのまま、地面に向かっていくわけで。

今、自分が居たところは、どこだ・・・・・・?
歩道橋の、階段。

唐突に思い出した事実にぶわり、汗があがる。

このままだったら、怪我、しちゃう

「っ」

両腕にかかるとんでもない重さ。
このままでは一緒に落ちる、わかっていたけれど。
離す、だなんて選択肢思いつかなくて。

手すりを握っていた手が、耐えきれなくなって、はずれた。

とたん落ちる勢いを増すその男の人。
引きずられるように私の体も地面に向かっていくわけで。

頭だけでも、守らなきゃ。

はずれた左手を彼の___ニット帽をかぶった頭に添えて。
ぎゅう、と抱きしめたその温もり。

その後、とんでもない衝撃が来る。

___そう覚悟していたのに。

感じたのは優しい温もりと、力強さ。
そして、ふわりとした衝撃。

「・・・・・・、え?」

何が起こったのか。
理解できない頭で、ゆっくりと開けた世界の先。

緑色の宝石が、きらきらと光っていて。
その色に、また、吸い込まれそうになる

「すまない___怪我は?」

印象に残るぞわりとするような低音。
耳元でそんな風にささやかれれば、驚かないわけがなくて。

「だ、いじょうぶ___」

早く答えなければ。
混乱する頭のまま思ったそれ。
大丈夫です
そう言おうと思ったのに。
よくわからない状況から足をつかねば、そう思ってひねった体。

「っぃ、」

痛みを発したのは足と腕

私の小さなうめき声を、彼は聞き逃さない。
ひどく丁寧な仕草で、歩道橋の階段に腰を下ろされる。

ひょい、とばかりに抱き上げられて、すとん、とおろされるまでの間がなくて、びっくりした。
じんわりお尻から感じる冷やっこさ。
それを気にもかけず、男の人は私の腕に、足に、ふれる。
初対面の相手に、男性に、こんな風にさわれられるわけにはいかない。
わかっているのに、思っているのに、あまりにもその手が、指が優しいものだから。

その瞳が、あまりにも綺麗だから。

何を言うこともできなくて。

「っ」

いつの間にか脱がされていた靴。
地面に足を着けなくてもすむように、との配慮か。
彼の膝の上に乗せるようにされて

イケメン男性にひざまづかせる女子大生
まって、この体勢端からみたら、すごい状態じゃない??

混乱する頭は簡単に目の前のことから意識をそらす
そらした、のに、

「ひゃ、」

ひたり、びっくりするくらい冷たい何かが、足首に触れた。
あわてて視線をおろせば、靴下までも取り除かれた自分の足に触れる___形のよい堅い指。
ああそうか、手が冷たい、というよりも、これは私の足が熱いのか。
その事実にたどり着いた瞬間、びりり、響く痛み

「ここか」

静かな声。
そのまま手は離れて、今度は私の左肩に。

「った」

とある箇所をさわられればまた響いた痛み。
それを確認すると男は痛みを和らげるように優しく私の肩にふれて、膝裏に手をいれて___


そうして、世界はぐるりと回った。

なにこれ、どういう状態?!

あわてて見渡した世界は、いつもと違って見えた。








そうして、冒頭に戻る。

この人、全くこっちをみないんですけど!!
ねえねえ!!
反応してお兄さん!!
すたすたと私を抱えたまま進んでいく彼に、とまって、おろして、と頼むけれど、彼は反応してはくれない。
暴れようとも彼は遠慮なく進んでいく物だから___途中で諦めた。
まあ、なるようになるかな、と。
諦めて体の力を抜けば、ようやっと彼の緑色がちらり、こちらをみてきて。
へらり、笑ってみせればその緑が細まった。

迷いなく進んでいく長い二本の足。
慣れてこれば、いつもよりも高い視線は新鮮で。
あまり振動がこないように、だろうか。
ひどく丁寧に歩いてくれるので、正直過ごしやすく。

まあどうにかなるか、辺りの景色を堪能することにした。

___と、彼の足が止まる。

目の前には一台の赤い車。
残念ながら車に詳しくないためいったいなんの車なのかもわからないけれど。
とりあえず、早そうで、高そうっていうことだけわかった。
私を抱え上げたまま、彼はがちゃりと運転席側をあけて私をのせて___え、私に運転しろって?一瞬どういうことかと思ったけれど、乗った先、そこは助手席だった。

え、これ、外車・・・・・・?

ゆっくりとおろされたシートは今まで乗ったどこのイスよりも弾力がよく、体にフィットする

なにこれ、このくるまなに?!
絶対高い奴!!

___とか考えている間に車はゆっくりと進み出して。
え、あ、ちょっとまって!?
なんの抵抗もなく車乗っちゃったけど・・・・・・これ、あんまよくない奴じゃないですか??

___、おまえ馬鹿か?!___

友人の有名人が焦った表情でこちらをみてくるのが脳裏に浮かんだ。
言われなくても自分で今思ってますー!!
でも、事件ほいほいのあなたに言われたくはないですー!!





「捻挫ですね」

ほぼほぼ無言の気まずい車内。
反比例して驚きの心地よさのシート。
そんな状態でどこにつれていかれるのかと思えば、着いた先は病院で。

自分で歩くと主張したにも関わらず、問答無用とばかりに持ち上げられて運ばれた診察室にて。

さらりとした診断結果がでた。
まあでしょうね、と思いながらもお医者さんの話を聞く。
曰く、あまり負担をかけないように
曰く、少なくとも1週間は安静
などなど、普通の注意をはいはいと聞きながらも意識はやっぱり私を運んできた男性に向くわけで。
ちらり、視線を向けた先、壁に背を預けた男はまっすぐに私をみていて。

う、わぁ・・・・・・

なんだろう、これ、照れる。
思わず目をそらした。
あの緑の綺麗な色が私をみているのだと、そう思うだけで心臓がばくばくと音をたてて。

だめだ、あの色を、見続けたらだめになる気がする。


漠然とそんなことを思った。




処方された薬を受け取って、またもや反論を許されぬまま抱き上げられて。
再度乗せられた車の中。
ゆっっくりと運転席に座り込んだニット帽の男はそこでようやっと深く息をついた。

「___巻き込んで、すまなかった」

ぽつり、車内に落とされた言葉。
車の中にいるのは私とこの男の人、二人だけだから、必然的に言葉は私に向けられた物になる___のだけれども

「ええと、私巻き込まれたんですかね?」

私の記憶が間違っていなければ落ちていくこの人を思わずつかんだ。
それだけなんだけれど。

「と、いうよりっ!お兄さん!怪我、してませんかっ!?」

忘れていた、私の方がなんか怪我してるけれど、階段から落ちたのはこの人だ。
んで一緒に落ちた私を支えたのもこの人だ。

助手席から手を伸ばしてその腕に、胸元に、顔に、触れていく。
じくり、いたんだ肩は気のせいだと言い聞かせて。

一通りなでる手を、私よりもずっと堅い大きな手が止めた。

「___大丈夫だ。あまり肩を動かすな。悪化する」

やんわりと掴まれた掌。
そのまますぐに離れるかと思った手はなぜかつながれたままで。

やわやわと絶妙にこそばゆい力加減でなでられる。

「___1週間、安静にと言われたな」

手を掴まれたまま続けられた言葉

「ああ、言ってましたねぇ。うーん、バイトとかあるんですけど、まぁ仕方ないですよねぇ」

今回のことは不可抗力と言うものだ。
仕方がない。
1週間は不自由だろうけど甘んじて受け入れよう。
うん、と頷いて横を見れば、また、まっすぐにこちらをみる緑。

だから、その色に、弱いんだって___!

ぐ、と息を詰めた私をみて、その男の人は、ふむ、と声を上げた。
そのままするり、あいている方の手を胸ポケットにつっこんで取り出したのはスマホ。
片手でスマホを操作するとそれを耳に当てた。

ちなみに未だにもう片方手は私の手を握ったままだ。
ねえ片手ってやりにくくないですか??
離してくれていいんですけど??

「___俺だ。すまないが1週間ほど休暇をもらう」

車の中に響いた話し声。
緑の眼はこちらをみながら、言葉は耳に当てた電話の先へ届けるように。

「___その件はキャメルに任せる。ああ。そっちは休暇があけてからだ」

ゆるり、つながれたままの手が指が、手の甲を這う。
ぞわりとする感覚を味わっていれば、目の前の男性はその緑色のめを愉しげに細めて。

「ああ、少し可愛らしいペットを拾ってな。一週間ほど面倒をみることになったんだ」

それ、私のことですか?
電話を切った男をじとり、眺めていればニット帽の合間からこぼれた髪が、ゆらり、ゆれた。

「と、いうことだ。君の怪我は俺が原因でもある。一週間面倒をみさせてくれ___子猫ちゃん」

「にゃぁ、とでも言えばいいんですか?お兄さん」

子猫ちゃん
なんだろう、馬鹿にされている感しかないんですが??
しかもそこはかとなく言い方が似合っててまた・・・・・・

「ふ、俺は君の名前をまだ知らない」

「奇遇ですね、私もお兄さんの名前、知らないんですよねぇ」

見つめ合って、数秒、小さな笑いが漏れる。
出会って数時間。
それでも、この人が悪い人じゃないと思えるには十分な時間で。

「赤井秀一だ。改めて1週間よろしく頼む」

です。1週間、御世話になりますね」






そんなこんなで始まった、赤井秀一さんとの出会い
それがこれからの私に大きな変化をもたらすなんて、このときはまだ想像もしていなくって。












「さて、食べれない物はあるか?」

「赤井さん、唐突だってよく言われません?」

質問を質問で返す、秘技質問返し!!
双方得るものはなにもないという残念さ!

無理矢理休暇をもぎ取ったようにも思える男の人___赤井さんは、ゆったりとした動作で車を転がす。
片手はハンドルに。
そしてもう片方はたばこをくわえて。
あまりたばこは好きじゃないのだけれど___いやに様になっているものだから何も言うに言えなくて。
というか、この車は赤井さんの車で、この場所は赤井さんの場所だと思うとそんなこと言えるわけがなかった。

「言われたことはあるが気にしたことはないな」

「そこはぜひ気にしていただきたい箇所ですねぇ」

あっさりと帰ってきた返事はなんというか、非常に力が抜けるものだった。
きっと何度も言われているだろうに、何度もスルーし続けてるんだろうこの人は。

「で、返事は?」

「我が道を行くタイプですね、赤井さん・・・・・・食べれない物は特にないですが___ああ、魚介類あんまり好きじゃないですねぇ」

聞かれた質問にようやっとちゃんとした答えを返す。
そうすると赤井さんは、ふむ、と何かを考え出して。

「今からだと作るよりも外食した方がいいかと思ってな。逆に食べたい物は?」

「普通そっちを先に聞きませんか?でも特にないですねぇ」

中身があまり感じられない会話。
けれど、苦ではなくて、なんかすごく楽しくて。
どうするか、どうしましょうか。
そんなやりとりを数回繰り返す。

「俺の食べたい物でかまわないか?」

「問題ないでーす」

そうして入ったのはなんかものすごくごっついお肉の固まりがでるお店でした・・・・・・
美味しかったですが、おなかいっぱいです・・・・・・
カロリー絶対やばい。
そんなに太くない体のどこにあの量のお肉が入ったのか、甚だ疑問である。
ちなみにお姫さまだっこは全力で拒否して、なんとか腕をかしてもらうのに留まりました。
がんばった私







おかしいと、思ったんだよ・・・・・・
家の場所に関しては送ってもらうから教えるのは当然だったけど、家の近くのパーキングの場所聞かれるのもわかるけど___
コンビニでなんかお泊まり用品買ってるなって・・・・・・なんかおかしいなぁ、とは思ったんですよ。

「問題が?」

「むしろなんで問題ないって思ったんですか?そこ詳しく教えてもらえますか?」

美味しい夕食を食べて、家まで送ってくれる___それくらいの感覚だったのに。
車を近くのパーキングにとめて、先ほどと同じようにお姫様だっこは全力で拒否して。
そうして家まで肩を借りて___そこでさようなら、だと思ったんだけどなぁ・・・・・・
気がついたらちゃっかり上がり込んだ赤井さんは私をソファにおろすと、興味深そうに家の中をきょろきょろと動き回っていて。
私が制止に動けないのを良いことに、それこそ楽しそうに、戸棚やらをあけていく。
何この人フリーダム!

お風呂入りたいんで今日はもうお引き取りを___
できるだけ失礼にならないように、とがんばって考え出した言葉。

それに帰ってきたのはきょとんとした、なんか可愛らしい表情と、

「ん?一週間世話になる」

という謎の言葉だ。

「帰れ」

思わずそんな言葉にすり替わるのは仕方がないんじゃないですかね!

「ふむ、帰ってしまえば君の面倒をみるものがいなくなるが」

「私どんだけ子供だって思われてるんです?」

些かどころか大変遺憾でございます!!
こてん、と首を傾けてくるのどうかと思います!!
なんかかわいいですね!

「足はともかく、肩の湿布は貼りにくいだろう」

「ぐ」

それは、確かにそうで。
思わず声が止まる。
だがしかし、それはここに彼が泊まることとイコールにはならない。

「風呂だって一人だと入りにくいだろう?」

「それは意地でも入りますから!むしろそれ手伝うつもりだったんですか!?」

なんだろう、帰ってきてから大声出しっぱなしな気がする。
もう一回帰れ、と言うべきか。
じいっと赤井さんの顔をにらみつければ、その瞳にやっぱり射すくめられて。

「朝昼晩、便利な家政婦ができた、とでも思えばいい」

「家政婦にしては随分な存在感ですが」

その瞳をみてしまってからNO,と言えるわけがないことは、自分で理解してしまっていて。
赤井さんから視線をはずして言い募る。
それに対して赤井さんはくつりと小さく笑うものだから、すねている自分がばからしくなって。

一つ、溜息。

「変なことしたら通報しますからね」

私の言葉に赤井さんはなんとも言い難そうな表情を浮かべながらも頷いてくれたから。

やっぱり、もういいか、という気持ちになって。
お気に入りのソファの上、でろり、力を抜いて体を預けた。

「突然リラックス状態だな」

「家でまで気を張っていられないですよぅ・・・・・・他人がいたって・・・・・・」

疲れた、休みたい
その願いはひどく単純で。
それを思う頭を持つ体も同じように単純なわけで。
もういいかな?
もういいんじゃないかな?

そう思い出すと、体はぐでぐでに、考える力はとろとろと溶けだしていく。

「ここで寝るのか?」

寝るな、とは言わないんだ。
そんなことを思いながら彼の言葉にかくん、と一つ動くことで答えれば。
暖かい何かが頭に乗せられたのがわかって。
ゆるゆるとなでられているのだと、感じて。

その温もりに、疲れ切っておなかがいっぱいになった意識は___一瞬で落ちていった。


頭の中、友人の有名人に

___!!知らない男を家の中に入れるとか、正気か!?___

とか言われた気がするけど、気のせい、絶対気のせいだよ・・・・・・





___微睡む世界の中、暖かな何かが足にふれて。
ゆるゆるとなでるようにすぎていく。

少しだけ浮上した世界のなか、ゆっくりと開けた瞳の先。
ゆっくりと動くニット帽。
この人室内でも帽子脱がないんだなぁ・・・・・・
そんなことを思いながらその人の動きを眺める。
ちゃぷ
部屋の中に落ちたそれは水の音。
キッチンで水が落ちてるんだろうか。
ゆらり視線を向けてみるけれど、ここからはキッチンは見えない。
それに、なんだかひどく近くで聞こえたような、気がしなくもないけれど。
見えないそれは早々にあきらめて、視線を戻す。
帽子、その下の顔、服、それから腕____
そこで気づく、その腕の先、手が持つのは白い何か。
それが優しく私の足をなでている。
ぼおっとした頭でそれを眺めていれば、白いそれが足からはずされて。
ちゃぷ、という音とともにいつの間にかそばにあったおけに浸される。
微かな湯気
暖かいのはこれだったのか、と回らない頭のまま考えて。

赤井さんの大きな手が、白い何かを絞るのを眺め続ける。

と、ゆらり、緑色が私を写す

「き、れぇ」

何度みても綺麗な、宝石みたいなそれに、どろどろに溶けたままの思考は思ったことをダダ漏れにして
宝石みたい、だなんて。
何度も思ったけれど。
それよりもこの瞳は

「あめだま、みたい、」

きらきら煌めく宝石なんかよりもずうっと、身近で、近寄りやすい。
口に含んで大事に大事に味わって食べたい、そんな飴玉みたいで

「味わってくれるのか?」

緑色が瞬いて、そんなことを聞いて来るものだから。

「あじあわせてくれるんですか?」

率直にそう返せば、その緑色は少しだけ考えるように伏せられて。
綺麗で、手に入れたくなるそれに、そおっと手を伸ばした。

緑を携えたその目尻に指を這わせて。
そのままゆっくりとその顔を両手の平でつかむ。

少しだけ引き寄せるようにすれば、その人は抵抗もなく近寄ってきてくれて。
こつん、おでこをあわせる。

「でも、もうちょっとながめてたいです」

きらきら、きらきら
食べてしまえばなくなってしまうそれを、いますぐに食べるなんてもったいないから。

さっきよりもずっと近い距離で、その緑色を眺める。
その緑に映った私はへらりと笑った

「最後はちゃぁんと、おいしくたべますね」







この人の存在が私にとってかけがえのないものになるだなんて、予想もしていなかった。










※※※※※※※※※※※※
と、いうことで赤井さんバージョンスタート








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