ドリーム小説











カウントダウン6




朝起きて目の前にイケメンが居るとか誰が想像したよ・・・・・・?
何事?心臓止まるじゃないですか!
えーと・・・・・・昨日は寝落ちた赤井さんをそのまま炬燵で寝かせて、私は自分のベッドにはいった___と思うんだけれども。
ゆっくりと周りを見渡してみてここが私のベッドだと確認する。
と、いうことはイレギュラーはこの男なわけで。
先ほど心臓の音を高ぶらせた___この場合は驚きで___目の前のイケメンに目を戻す、と___
ばちりとその緑に捕まった。
固まる私を見つめる緑。
少しばかりシュールだ。

とろんとした緑色は一度、二度、瞬くと再度閉じられて。

「まだ、もう少し___」

頭に回った温もり。
引き寄せられた胸元。
ばくばくと鳴る心臓とは裏腹に、体の強ばりは溶けていく。
これに抵抗できる人がいるなら、見てみたい。
ゆっくりと微睡んでいく思考の中、その温もりに身を預けた。


___まあ、案の定寝坊が確定ですよね!


めざまし時計の音も気にせずに寝続けたのか。
もともとめざまし時計を準備するのを忘れていたのか。
今となっては定かではない。

今現在確かなことの一つは、どう考えても講義はもう始まっている時間だと言うこと。
それから横は空っぽだという事。
じっとりとした目で横を見るけれど、明け方にみた緑はそこにはなく、
触れてみてもその箇所は冷たく。
結構前にふとんからでただろうに、まったくもって声をかけてくれなかったのはどうかと思う。

めざまし時計をながめながらうなだれる私に響いたノックの音。
ぎしりと振り返れば、リビングからの明かりを背にこちらをのぞき込んでいる赤井さんの姿。

「おはよう」

相変わらずの低音のいけてるボイスですが、めざましとしての役目には不十分なようですね。



もう今更急いでも講義に間に合わないのは決定しているのでゆっくりと着替えを終えると炬燵に座った。
そうすれば、目の前に高いパンの塔がおかれて___え??

もう一度ちゃんと見る。

お皿の上にポテトがあって。
その中央に平べったいパンがいくつもあって。
間に挟まれているのは緑のレタスに赤いトマト。
その中で堂々とした存在感を放つ茶色の物体は___どうみてもハンバーグで。
そこらへんは、どうでもいい。
むしろ美味しそうなんだ、けれど___
量が、おかしい。
なぜパン、レタス、トマト、ハンバーグ、パン・・・が一つのタワーに三度ほど繰り返されているのか。

「赤井、さん・・・・・・?」

呆然と名前を呼べば、赤井さんはなぜか自慢げに胸を張って。

「今日の朝ご飯はハンバーガーにしてみたんだが、どうだ?」

どうだ、と言う言葉と同時にそわそわとした___とてつもなく期待した瞳が向けられているのを感じて。

「と、ても、オイシソウデスネ」

がんばってその言葉をひねり出した私は頑張ったと思う。

「あと新一君から連絡がきてたようだ」

「え、工藤君からですか?」

なぜそれを知ってるんですか?と聞く前に赤井さんの手にもたれている見慣れたスマホに気づく。
あれ、私ロックとかしていた気がするんですけど?
工藤君から、ということで、寝坊かどうかを確認するための連絡だろう___と思いながら渡された私のスマホをながめる

___1時間目休講___

書いてあった文章はそれだけ。
でも今の私には非常に役に立つ情報だった。

「と、きていたからな、起こさなかったんだが?」

ごめんなさい、思った以上に優秀なめざまし時計さんでした!







朝からヘヴィすぎる巨大ハンバーガーを食して___ちなみに半分以上赤井さんの胃の中に消えた。
さすがに朝からあの量は難しいです、はい。
安定の赤井さんの運転で大学に向かい、別れるときにこれまた巨大な包みを渡されて。
ひょこひょことした足取りで2限からの講義に向かう。

と、

君、おはよう」

するり、重たさを発していた包みを奪われ、空いた手に入り込む柔らかな肌。
重心をかけぬように意識していた足をかばうように回された腕。
近づいたことでほのかに香る、さわやかな匂い。
見るまでもなく、わかる。
特徴的な呼び方に、男顔負けのエスコート技術。

「世良ちゃん、おはよう」

自分よりも高い背を見上げれば、にぱり、太陽のように笑みを浮かべた同級生の世良ちゃんの姿。
けれどその笑顔は瞬時に曇って。

「で、僕の大事な君に怪我をさせたのは誰、なんだい?」

心配そうな表情
けれど、獲物を前にした肉食獣のような強い瞳で。

至近距離、その瞳の色は、その瞳の強さは___どこか彼に、似ていて。

へらり、笑ってみせる。

「勝手に怪我したんだよ。世良ちゃんが気にしなくても大丈夫だから___」

するり、手から温もりが消えたと思えば、頬が柔らかく包まれて。
こつり、あわせられた額。
間に挟まった世良ちゃんの髪が、なんだか非常に見覚えがあるように感じて。

「僕には、君の怪我の理由を知る権利もないのかい?」

寂しそうな声で、悲しげな瞳で、そんなことを言われたら黙ってる事なんてできなかった。
世良ちゃんのこの目に!弱いんだって!!



「つまり___大の男が落ちるのを防ごうと手を出した、ってことだね?」

にっこり、八重歯をみせて可愛らしく笑っている___はずの世良ちゃんだというのに、非常に、こう、怖いです。
えへ、と笑ってみせれば頬をぐに、と摘まれた。

「せらひゃん、いひゃい」

ぺしぺし、その手をたたくけれど世良ちゃんは笑顔のまま手をゆるめることはせず。

「いいかい、君。僕は君のそういう風に咄嗟に行動できるところは常にすごいと思っている。けれど___」

まっすぐにその緑の瞳に見つめられたら身動きができなくなってしまう。
その深い色に、私はやっぱり勝てなくて。

「それで、君が怪我をしてしまうことになるのならば、僕は君のその行動をとめなければいけなくなる」

摘まれていた頬がゆるりとはずされて。
今度は先ほどと同じようにしっかりと温もりにつつまれる。
いたわるように頬を撫でられれば、何も言えないままその瞳を見つめることしかできなくなって。

「君のすごいところを、僕になくさせないで___大事な君に傷ついてほしくないんだ。」

いつもの楽しそうな朗らかな声ではなく。
小さい子供に言い聞かせるかのように、諭すかのように、世良ちゃんは伝えてくる。

「わかってほしい」

ぽそり、最後のその言葉にたまらなくなって、その体に飛びついた。
ぎゅう、と抱きしめれば、私よりもずっと強い力で抱きしめ返してくれて。

「ごめんね、世良ちゃん___心配してくれて、ありがとう」

「___わかってくれたなら、いいよ」

ぎゅう、ともう一度力を入れてからそっと離れた。

「で、その男ってどんな人なのかな?」

先ほどまでのしおらしい態度はどこにいったのか、瞳には怒りの感情が浮かんでいる。
あれ?もしかして矛先が変わった?!にっこり笑ってるのにやっぱり笑ってない!








その人が迎えに来る、そう伝えれば絶対にあってやる!
そう意気込んだ世良ちゃんと一緒に授業後、教室にて赤井さんを待つ。

なぜかわからないけれど、赤井さんは簡単に私の場所を突き止めるので、動く必要がないとわかったためだ。

ちなみに本日のお弁当は巨大ハンバーガーでした。
朝ご飯とは少しだけ中身が変えてありましたが、外で食べると食べにくいことこの上ない上に、非常に、量が、多かったです。
大半が世良ちゃんのおなかに消えていきました!

まったりと帰る支度をする私の周りを番犬のようにうろうろする世良ちゃん。
頼もしい上にかわいいなぁ、と思いつつ鞄に文具を仕舞っていれば、ざわり、昨日と同じで揺れた室内。

来たのかな、と思い顔を出入り口に向けると、ぽかん、とした顔を浮かべた赤井さん。
え、何見てるんだろう___あ、でもまって、それよりも気になるとこいってもいい??
赤井さん、ポアロのエプロンつけたまんまなんだけど!?
ちょ、いつも私がつけてる奴だけど、赤井さんが身につけると一気に高級感でるねなんで!?

「え、秀兄・・・・・・?」

ぽつり、落ちてきた言葉は横の世良ちゃんから。
え、と見上げれば世良ちゃんの瞳は一カ所に___赤井さんに釘付けだ。

お知り合い?というか今、兄、っていった?

世良ちゃんと赤井さんと、前と上と見比べていれば、先に正気に戻ったのか、赤井さんが長い足でこちらに向かってくる。
私の3歩が赤井さんの1歩だね!!長いね足!

「真澄、か?」

「やっぱり、秀兄?」

近くまで来た赤井さんは一度、二度、緑色の瞳を瞬かせるとまぶしそうに目を細めてかすかに笑った。

「久しぶりだな。元気にしていたか?」

くしゃり、世良ちゃんの頭に乗せられる赤井さんの手。
くすぐったそうにしながらもそれを受け入れる世良ちゃん。

ああ、本当だ。
よく見れば目元も、髪質も、仕草も、二人ともなんだかよく似ていて。


いい、なぁ・・・・・・


その感情は、いったい何に対してなのか。
いったい誰に、対してだったのか。

口からでそうになったそれをあわてて自分の手でふさぐ。
ばちん、という軽い音に二人の視線がこちらを向く。

私を見つめてくる2対の瞳。
それは、どちらもよく似ていて。
そして私はそのどちらにも弱いわけで。

「どうしたんだ君」

「どうした?」

よく似た二つの緑色。
両方が私を映していることに、じわじわとなんだか、嬉しい感情があふれて。
へらり、笑った。

そうすれば、きょとりとしていた世良ちゃんも柔らかく笑い返してくれて。
赤井さんもふわりと目元をゆるめてくれて。

「で、秀兄なんでここにいるの?」

私を見つめながら始まった兄妹の会話

「ああ、彼女の迎えに」

こちらを向いていながら口を挟む好きも与えない、強い。
この兄妹強い。

「・・・・・・もしかして、君の怪我の原因?」

世良ちゃん正解。
赤井さん、目を泳がしてるんですけど、さすがに妹の前だと気まずいですか??

へらり、笑って頷いてみれば、世良ちゃんの目がきっ、とつり上がった。
びし、と赤井さんを指さして世良ちゃんは叫んだ

君!さすがの僕もこの体格は止められないよ!なんて無茶したんだ!本当に怪我がそれくらいですんでよかったんだよ!!」

教室中に響く声。
残っていた人たちの目が一斉にこちらを向く。
ごめんなさい、お騒がせしております〜

「秀兄も!また目の下の隈がひどくなってる!どうせ無茶してるんでしょ!!」

矛先は赤井さんに変わった。
いいぞ、対象が私じゃなければもっとやれ!
あ、赤井さん目をそらしてる。

「どうした、世良?」

「世良ちゃん、どうしたの?」

「こっちまで声響いてるけど」

ひょこりあいたままの出入り口から顔を出したのは言わずもがな、名探偵とその幼なじみ二人で。


「え、だれ!そのイケメン!」

「私この人見たことある・・・・・・?」

「赤井さんっ、ポアロのエプロンっ・・・・・・!」

三者三様それぞれのコメントをありがとう。
私的に、工藤君とじっくりお話ししたいです。
似合ってんだか、似合ってないんだか、非常にコメントに困るよね!
赤井さんのポアロのエプロン!!









場所は変わり喫茶ポアロ

にこにこと笑うのは梓さん。
机に突っ伏してお腹を抱えている工藤君。
イケメンの赤井さんにキャーキャー楽しそうな鈴木さんに、そんなイケメンを見て何かを考える毛利さん。
ちなみに世良ちゃんは私の横でいまだにこんこんと説教してくれてます。
世良ちゃん怖い、誰か助けて。

「赤井さん!私赤井さんがいれたコーヒーが飲みたいですー!」

鈴木さんの言葉に了解、と答えるとキッチンに入っていく赤井さん。
ポアロのエプロンをつけているが、先ほどと違い背景がキッチンなため、思った以上に似合っていて。
___さすがに、さすがに背景が教室だったときは似合わなかった。
てきぱきと以外にも手際よく準備していくのを世良ちゃんの声をバックミュージックにして眺める。
見た目的には確かにコーヒーが好きそうではあるが、自分でいれる様とか似合わなさそう。
誰かにいれてもらったのを優雅に飲んでそう。
まって、下手したら私がいれるのよりも上手そうなんだけど
私の方がバイト歴長いはずなのに。
少しだけしょんぼりとした。

君?大丈夫か?僕の説教に疲れちゃったか?」

全く別方面で落ち込んでいたというのに、世良ちゃんがうまく勘違いしてくれた。
うん、それでいいよ、説教はおしまいにしよう?

「まあ、もう少し話すことがあるからまだ終わらないけどな!」

終わらなかった!!

からん

響いたドアの音。
いつものクセでいらっしゃいませ、と言いそうになって___赤井さんの口からそれがでたことに、じわり、笑いがこみ上げて___入り口に立つ褐色の肌、ミルクティー色の髪のイケメンを見つけてぽかん、と口を開けた。
だれ、この、イケメン
皆の視線が入り口に向けられて、ぴたり、動きを止めた。
だよね、イケメンこれ誰ってなるよね!!

「え、安室さん?!」

梓さんが心の底から驚いたという声を上げて。
え、まってくださいお知り合い??

「え、あー!本当だ!安室さんじゃないですかー!!」

先ほどまで赤井さんにべったりだった鈴木さんが一目散に男の元へ。
まって、鈴木さんも??

「お久しぶりですね、安室さん。元気にされていましたか?」

毛利さんも先ほどまでの表情を一転、ほころばせて。
あ、もしかして皆??

「安室さんじゃないか!久しぶりだな!」

私に説教をしていた世良ちゃんですらぱぁっと表情をゆるませて。
私だけ蚊帳の外ですか、これ

「梓さん蘭さん園子さん世良さん、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」

さわやかな笑み。
効果音がきらきらと鳴ってそうだ。
さらり、風もないはずなのに、髪が揺れて。
心なしか良い香りがする。
発された声もすてきな声で、耳にじわりとしみこんでいく。

ああ、いいな、この声に呼ばれてみたいな、そんなことをおもうくらいに。

女性陣にさわやかに挨拶を終えた彼はかつかつと足を進めてカウンターで全く彼を見なかった工藤君の元へ詰め寄ってにっこり、再度笑った。

「ところでさっきから全く持ってこちらを見てくれない新一君にお伺いしたいんですが何でその男がここにいるのかなおしえてくれますよねなんであのおとこがこの喫茶ポアロにいるんですか?」

マシンガントークで名指しされた工藤君を見れば先ほどまで肩をふるわしていたというのに、全くこちらを見ることなく、だらだらと冷や汗をながしていた。

「久しぶりだな安室君」

「うるさいですよ、今僕は新一君とお話ししてるんで」

「タイミング悪すぎませんか・・・・・・」

そんな声を後ろにしながら私の前には4人の女性陣。

「お父さんの弟子だったの。あんなに格好良いのに!」
「安室透さん!イケメンでしょ!!」
「ここでバイトしてたの。顔が良いから女子高生に人気で、あ、ハムサンドどころかいくつかの料理は安室さんのレシピの通りに作ってるのよ」

とりあえずもらった情報をまとめると、安室透さんは格好良くて探偵の弟子でイケメンでお料理上手、ということかな??
あのおいしいハムサンド作ったひとか、すごい!
私が作ってもいまいちだけど、是非本場の味をご賞味させてもらいたい!!
イケメンなのにハイスペック!!

「後は秀兄をずっと追いかけまわしてたかな」

まって、世良ちゃん、突然爆弾つっこんでこないで!

「世良ちゃん、まって、どういう___」
「うわ、苦っ、赤井!こんなのをお客さんにだすつもりかっ!?」

世良ちゃんへの問いかけは安室さんの声にかき消された。

何事かと工藤君たちの方へ目を向ければ立ったままわなわなと震える安室さん。
その手にはコーヒーカップだ。
工藤君は間に挟まれながら遠い目をしている。
赤井さんはふむ、と首を傾けて言葉を発した。

「それくらい苦くないと目は覚めないが?」

「お客さんはリラックスするために飲みに来てるんですよ、ただ寝ないためだけに利用しているお前と一緒にするんじゃない」

   「用途が違うんですよ赤井と一緒にするんじゃない」

うわ、安室さんすごい、ばっさり切り捨てた。
一片の隙もなく、ばっさりと!
しかも真顔で!

「そこ退いてください、赤井」

むすりとした表情でカウンターの中へ移動した安室さん。
毎日行っているかのようにスムーズな流れでコーヒーをセットしていく。
えええ、私より手際良い、この人!
と、工藤君がちょいちょい、と手招きしてきた。
ので、ひょこひょこと工藤君の横の席に座る。
そこからはカウンターの中がよく見えて。

うわぁ、てきぱきと無駄な動きがない!!

「すごい・・・・・・」

ぽつりつぶやいた私に蒼い瞳が向けられる。
一度、二度瞬いたそれがふにゃり優しく下げられて。

「初めまして、ですね。新一君たちのお友達ですか?僕は安室透と言います」

初対面の挨拶ですらそつなくこなす!!
近くで見ると本当にイケメンですね!!

「初めまして、工藤君たちの友人で、この場所でアルバイトをしています。です。イケメンですねぇお兄さん」

私の返事にぱちくりと瞳をまんまるくした彼は___照れたように笑った。
うわぁ、本当にイケメンだぁ・・・・・・

「初対面の女の子に___それも君みたいな可愛らしい子にそういってもらえるのは嬉しいね、ありがとう」

伸びてきた手がぽん、と頭に乗せられた。
目線は彼を見ていられなくて机の上で。
うわ、これ、やばい、絶対顔赤くなってる!!

「しかもポアロでバイトってことは僕の後輩だね。よろしく、さん」

名前呼びって、男の人に取ったらそんなに難易度低いの?!
ぽん、ともう一度頭に置かれた手が___不自然に、離れた。

「___なんのつもりですか、赤井」

あれ、と思って見上げた先。
険悪な雰囲気を醸し出す安室さん。
その手を握る赤井さん。
___握っている手は先ほど私の頭を優しく撫でてくれていたものだ。
どうやら赤井さんが安室さんの手を私から引き離したらしくて。

「いや、体が勝手に」

赤井さんも、きょとりとした表情で。
自分でも何をしているのかわからないそんな雰囲気をだしている。

「___そういえば、あなたがここにいる理由まだ聞いていませんでしたね」

ちなみに会話中決して安室さんがコーヒーを入れる手は止まっていない。
赤井さんの目がぐるり、店内を巡って、最終的に私に止まった。

「新一君説明を」

「いや、赤井さん自分のことじゃないですか、コッチに回さないでくださいよ」

こちらを見ながら工藤君を指名したものだから、工藤君はじとりとした目を赤井さんに向けて。
なあ、とばかりに工藤君がこちらを見てきたので、にっこりと笑ってつづけた。

「工藤君よろしく〜」

おまえまたか!」

探偵である工藤君は人を納得させる話し方がうまくて。
説明要因としては非常に優秀なわけで。

「だって工藤君の方が説明上手だしねぇ」

「新一君?」

さらには安室さんが追い打ちとばかり工藤君の名前を呼んだものだから。

「だー!!なんっで毎回毎回、無関係なのに巻き込まれてるんだ俺!」

とかいいながらすごく丁寧にわかりやすくはしょりながら説明してくださいました。




「つまり___赤井がさんを怪我させたかわりに1週間専業主夫をしている___と?」

的確にわかりやすく一言でまとめてくれた安室さんに拍手!
その言葉にへらり、と笑って。

「その一環として、ポアロでのアルバイトをしている、ということですね」

「赤井さん、顔が良いから女性の一見さんのお客さんが今日結構来てくれてるんですよ〜!」

いつのかにか戻ってきた梓さんが嬉しそうに言う。

「___ひどい、梓さん・・・・・・僕とのことは遊びだったんですね・・・・・・」

「ごめんなさい、かつての金蔓より今の金蔓です!」

「梓さんって結構、はっきりと欲望に忠実ですよね」

ちなみに今金蔓扱いされた赤井さんは安室さんがいれたコーヒーを鈴木さんたちに持って行っていて、ここには不在だ。
けれど安室さんは梓さんの言葉を笑って受け止めていて。
これがかつての掛け合いなのか、と少しだけうらやましく感じる。

「でも、あの人に接客ができるとは思わないんですが・・・・・・?」

「まあ顔がいいので」

梓さん、強い!

「・・・・・・あの苦いコーヒーを出すんですよね?」

先ほどの苦みが口の中に蘇ったのか、安室さんの表情が微妙になった。

「ちゃんと相手選んでますよ!ついでに言うなら、まだ練習中で・・・・・・と一言添えて儚げにほほえむことをお願いしてます」

「梓さんしたたか!」

満面の笑みの梓さん。
それでもあの赤井さんのことだから、気がついたらめちゃくちゃおいしいコーヒーを入れられるようになってそうだとも思う。

「まだ練習中なんでな・・・・・・感想を教えてほしい・・・・・・」

「おい赤井、それいれたの僕ですよ」

後ろのテーブルから聞こえてきた赤井さんの声に間髪入れずに安室さんが返事する。
ちなみに儚げな表情をみようとそちらを見たけれど、そこにあったのは大胆不敵なニヒルま笑顔だった。

「それのどこが儚げな笑みだ」

安室さんもちゃんとつっこんでくれた。
わー、以心伝心してるんじゃないですか私たち!

「秀兄がいるならしばらく通おうかな」

赤井さんによって運ばれたコーヒーを美味しそうに飲みながら世良ちゃんがそんなことを言っていた。



戻ってきた赤井さんの胸ぐらをつかみ、それこそにこやかなまでの笑みを浮かべて、安室さんは言った。

「梓さん、この男に僕のポアロをひっかき回されるのは癪ですので、僕も1週間ほどバイトさせてください」

もう一度言おう。
赤井さんの胸ぐらをつかんで、視線は赤井さんを見ながら、にっこりと笑って、梓さんに言った

「いや、安室さん、赤井さんの胸ぐらつかむ必要ありました?後安室さんのポアロじゃねぇし」

工藤君の言葉は全力でスルーされている。
想定内なのか、一つ溜息を吐き出している工藤君。
どんまいがわりに肩を一つ優しく叩いておいた。

「どうですか?梓さん」

「お帰りなさい安室さん!」

「梓さん、気のせいですかね、今金蔓って副音声が聞こえた気が・・・・・・」

再度確認のため言葉を放った安室さんに満面の笑みすぎる梓さん。
商魂たくましいお人で・・・・・・!

「と、いうことです。いいですか?赤井。僕がポアロにいるうちは、生半可な物、ださせませんからね」

うわー・・・・・・安室さん燃え上がっている。
え、この二人仲が悪いの?
でもその割に赤井さんのほうは非常に通常運転にも見える。

「ふむ、安室君がいるなら心強い。頼りにしている」

「なんっかムカつきますね」

ぺい、っとばかりに赤井さんの胸ぐらを離した安室さんはくるり、今度は私を見て。

がしり、肩をつかまれた。
かすかに痛んだのは、まあご愛敬という奴か。
至近距離でその蒼に見つめられる。

「いいですか?さん。いくら顔がよく見えようとこの男___赤井秀一は問題児です。主夫として家にいれるのは致し方がないですが、夜8時以降は絶対に追い出すように!___ちょっと待ってください、今、晩ご飯はどうしてるんですか?」

夜8時どころか、それ以降朝まで一緒にいるんです、だなんて、言えるわけがないから。
へらり笑ってみせた。

「___え、まさか、とは思いますが、」

何かを言い募ろうとした安室さん。

「安室君、彼女は肩も負傷している」

と、安室さんの手が、肩から消えた。
その手をつかむのはやっぱり赤井さんで
それをみて安室さんは何かを考えた後、ふわりと笑った。

「なるほど」

今日みた中で一番のよい笑顔で。
するり、すぐそばにきた安室さんは、なんていうか、非常に甘い表情を浮かべた、きが、する。

「赤井は仕事に戻ってかまいませんよ。さんの今日の晩ご飯は、僕が腕によりをかけて作りますから」

んん?
どういうこと?
今何を言ったの安室さん

「ほう、今日の晩ご飯は安室君が腕を振るってくれるんだな。楽しみだ、よろしく頼む」

あまやかな笑みは一瞬で不快そうなものに変わって。
一度も赤井さんをみないままで安室さんは言った。

「赤井は自分で作れ」

すぱん、と切り替えされたことを気にもとめないのか、赤井さんはどことなくわくわくとしているようで。

「安室君の料理はとてもうまいからな。楽しみにしていると良い」

「なんで赤井がそれを言う」

「ええ、と?」

びしばしと一方的に安室さんから赤井さんに向けて飛ぶ火花。
それにどうすればいいのかと工藤君をみると___目をそらされた。
役にたたねぇ

「もちろん帰りも送らせてくださいね」

ぐい、とのぞき込まれて言われれば、至近距離のイケメン顔に顔が熱くなる。
これは、かっこいいな。

けれど、その距離は離されて。
ふわり、体に回った熱と、漂う香り。

「いくら安室君でも、彼女を送り届ける役目は渡せないな」

耳元でささやかれた低い声。
すぐ真後ろに赤井さんがいるのを感じて、ぶわり、熱が上がった。
そんな私を正面から見た安室さんは、きょとんとした表情を浮かべて___とても愉しそうに、笑った。

「おいしいコーヒーを入れられるようになってから言ってください」

「望むところだ___さて、入れ方を教えてくれるか安室君」

「他力本願か」

そっと温もりが離れたことに、どことなく心細さを感じながらカウンターの中に入っていく二人を眺める。
すすす、と横に寄ってきたのは工藤君で。

・・・・・・頑張れ」

ぽつり応援とも思えないほどの小さな声。
もう少し覇気がほしい、覇気が。

「工藤君説明してくれるよね?」

あの二人、仲が良いのか悪いのか。

「あー・・・・・・安室さん、一方的に赤井さんが好きじゃなくてだな。たぶんおもしろいネタを見つけた的な?」

ああ、だからこそのあの笑顔か___
巻き込まないでほしいんだけどな!

ちなみにその後女子3人組にきらきらした瞳で絡まれた。

鈴木さん、二人の男に取り合われてない
毛利さん、どちらが好きとかそういうのもない
世良ちゃん、秀兄は優良物件だとか、知ってる!








ほっぺたが落ちるかと思うほどおいしい安室さん特製のご飯を食べて、非常に満足な気分で帰った自宅マンション。

「赤井になにかされたらすぐに連絡してください」

イケメンはさらりとそういって私に連絡先をくれた。
手慣れてやがる!!

ひょこひょこする私をまだ心配そうに見ながらも赤井さんは抱き上げずにいてくれて。
私と一緒にもう普通に部屋に入ってくると、ソファに座る私の前にひざまづいた。
___ん?ひざまづいた??

今日の服装はタイツだったため、患部は表にはでていない。
けれど、その箇所をするり、大きな手でなぜられて、ぞわりと、した。

「脱げ」

「言ってることはわかりますけど、赤井さんに見られながらだとちょっと___」

私の言葉に、ああそうか、とばかりに彼はこちらに背中を向けた。
いや、そこにはいるんですか?
若干恥ずかしいんですけど!!
と、思いながらも、促されたままタイツを脱ぐ。
脱ぐか、脱ぎきらないか、くらいのタイミングで赤井さんがこっちを向いた。

「はやい!」

「へるもんでもないだろう」

間違いではないが若干納得がいかない。
けれど赤井さんは私の言葉などお構いなしに再度足首に触れた。

ひやりとした、冷たい手。
じわりとその手に冷やされているはずなのに、触れられた箇所から、熱が、広がるような、錯覚

「ん、まだ少し腫れているな」

かさりとした大きな手が、指が、なぞる。
息が乱れそうに、なる。

思わず自分の口元を両手の平で押さえて、赤井さんを見下ろせば、いつの間にかこちらを向く緑色。
縫い止められる、その色に。

ゆっくりと熱が離れて。
その掌が徐々に上にあがってくる。
近づく掌にぞわりとしたものを感じながらも、その視線をはずすことはできず。

その手が到達したのは___負傷していた、肩で

ちり、とした痛み
同時にはずされた緑にようやっと呼吸ができるようになった錯覚。

「安室君につかまれたところだな」

ゆるりと軽く撫でられて。
感じた違和感は昨日と変わらないくらいの物。

「___安室さんとは、どういうお知り合い、なんですか?」

肩を見るために近づいてきたため、赤井さんの顔が近くて。
意識をそらすように問いかける。
と、

「___君がはじめに聞いてくるのが、俺のことではなく安室君のこととは___妬けるな」

だなんて、いうから。
ゆぅっくりその顔が近づいてきたり、するものだから

その瞳が、やけに、熱を帯びてみえた、もの、だから、

べちん、

その顔を___すてきなお顔を、思わず掌で叩いてしまった。

「ご、めんなさい」

なんか、反射的に。
もごもごともれた謝罪の言葉に赤井さんはくつくつと笑い出して。

「すまん。からかってみただけだ」

からかわれた、ことにむっとしないわけでもなかったけれど。
それでも通常の瞳に戻ったことに、ほっとして、___でもどこか残念な気も、して。

「そうだな___安室君は___志を同じくした戦友、といったところか」

戦友
友達でも、仲間でも、知り合いでもなく。
その言葉はひどく、しっくりときて。

「___向こうも同じように思ってるんですか?」

昼間のやりとりを思い出して問いかけてみるけれど、くつりとした笑い声が帰って来るだけ。

「さあ、どうだろうな」

目尻を柔らかく細めた赤井さんは立ち上がると

「風呂をいれよう、入る準備をしてこい」

私に背中を向けて洗面所に向かっていった。




ぽかぽかとした体で、赤井さんに手当されて、ドライアーで髪を乾かしてもらってるうちに、また記憶は溶けていったようだった。





















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