ドリーム小説











カウントダウン 4





すがすがしい朝の光で目覚める___だなんて、理想はやっぱり理想だよね。
頭いったい。
なにこれ、いたい。

いつベッドに戻ったのだろうなんて、曖昧な記憶の中で。
ゆっくりと起きあがろうとしたら頭の中全力で誰かが鐘を打ち鳴らすかのような衝撃。
いたい、つらい、おきたくない。
そのまま再度布団とこんにちはする。
ええ、なにこれぇ、昨日なにしたっけ・・・・・・

ぐわんぐわん回る思考ではあの人のお酒を奪った記憶くらいしか思い出せない。
琥珀色の液体、たぶん、あれがウィスキー。

「うぃすきーとか、はじめてのんだから」

だからがんがんしてるんだなぁ、と原因にたどり着いた。
そうか、これが二日酔いというやつか。
知らないままでいたかった・・・・・・。

うーうー、とうめきながら布団にくるまっていれば、がちゃり、ドアが開いた音。
珍しく存在感を醸し出してきたな、とゆっくりと亀が甲羅から顔を出すように布団から顔を出す。
と、

「っ!」

そこにあったのは肌色。
さすがにズボンをはいてはいたけれど、上半身はなにも纏っていない。
がしがしと、頭の水気をふき取るように片手は動いていて。
___余談だがこのタオルは私の家にあった奴なので可愛らしいパンダの柄だ___その黒髪からはまだぽたぽたと滴が落ちている。

朝からシャワーですか!優雅ですね!

ぱくぱくと金魚みたいに言葉が見つからずに口だけが開閉する。
ゆっくりとタオルの間から彼の緑がお目見えした。

「服を!きて、ください、せつじつにぃ・・・・・・!!」

がちん、とかみあった視線。
そのままで話すことなどできなくて、すぐに目をそらして、
心の底から声をひねり出した。
一言目叫ぼうとしたのは自分にブーメランのように跳ね返り、頭痛に直結して。
ぎゅう、と布団の中に逆戻り。
うーうー、先ほどよりも強い痛みにさらに唸る。

でも言わなきゃと思ったんだ。

服を着てください赤井さん。

「大丈夫か?粥を作ってやろう」

ぎしり、音を立ててベッドに座ったのはわかった。
でも知ってる、赤井さんはまだ服を着てはくれていないって!!
布団の上からなだめるようにぽん、と叩かれた。

や、優しいそのうでに解されるつもりは、ないんですからね!!

答えずに居れば、その手はゆるゆると撫でる動きに変わって。

「___世話をさせてくれないか?」

心底困った、とばかりにつぶやかれた。

「ふくぅ・・・・・・」

私の言いたいことがわかったのか、ぴたり、動きを止めた赤井さんがふは、と吹き出した音。
え、この人そんな笑い方できるんだぁ、と一瞬布団を掴む腕がゆるんだ。

すきを、見計らったように!

「ひぇ」

がばちょ、と布団をめくりあげられた。
つまり、上半身なにもきていない赤井さんがそこにいるわけで!!

「だから、あかいさん、ふくをきて、くださいぃっ」

「問題ない。見られても減らん」

問題はそこじゃない!
私のHPは減るんです!!
視覚の暴力!

割れた腹筋とは引き締まった体とか腰回りとか!!
ちかちかする!

あなたが服をきてくれればそれで解決なんですぅ!

でもまあ聞き入れてもらえるはずもなく、なぜか異常に世話をやきたかる赤井さんに抱えられて、またリビングまで運ばれた。

「ねえ、赤井さん、なんでそんなわくわくしてるんです・・・・・・?」

「ねえ、赤井さん、だから私朝からそんなに食べれない・・・・・・」

「ねえ、赤井さん、本当お願いですから服を着てください・・・・・・」

私の言葉は綺麗に彼の耳をスルーしていったようですが!
ちなみに朝ご飯はたっぷりとしたフレンチトーストでした!
ごちそうさまです!



___忘れたままでいたかった。
無駄なところで記憶力を発揮するこの頭は、昨日の会話を、全部、ちゃんとお覚えてしまっている。
彼に向けてしまった言葉も、彼に告げてしまった言葉も
全部、違うことなく。

忘れたままでいられれば、それはきっと私にとってとてつもない平穏で、彼にとってもきっと都合がよい状況で。

そう思った瞬間、昨日の記憶に___ふたをした。




頭は痛いけれど、授業はある。
休めばどうか、の言葉を振り切って赤井さんに送ってもらった学校で。
ぐでん、と机にうなだれて死んでいる私を見つけたのはいつものメンバー。

「二日酔いだろ

うるさい、わかるならつつかないで工藤君。

「大丈夫?私そこまでお酒でやられたことないから辛さがわからない・・・・・・ごめんね?」

毛利さん実は酒豪だもんね、でもこの痛さ知らなくていいと思う。

「で?誰と飲んだの?赤井さん??」

鈴木さんめっちゃわくわくしないで・・・・・・間違ってないんだけど。

「弱ってる君もかわいいね。秀兄お酒強いからなぁ」

世良ちゃんのたらし!そうですね!あの人お酒強いんですよね!

頭上で交わされる好き勝手な会話。
相づちをうつのもしんどくて、うーうーと唸るだけ。

「うーん、二日酔いに良いものでも買ってきてあげるから、少し待ってて」

世良ちゃんがそういって立ち上がると仕方がない、とばかりに鈴木さんも立ち上がって。

「私も一緒に見てきてあげるわよ。まってなさい」

「あーりーがーとー・・・・・・」

構内にある売店に向かう二人を見送って再度机につっぷした。
毛利さんが優しく頭を撫でてくれるのが本当にあったかい。
その優しさに甘えていれば、ふと思い出した朝の会話。
緩慢な動きで工藤君に視線を向けた。

「工藤君」

「ん?」

私の呼びかけにすぐさま答えて、さらには声をあまり出さなくても言いように、とすぐ近くまできてくれて。
なんだ本当、気遣いの固まりか。

「沖矢昴さんって、知ってる?」

「え、」

今朝聞いたばかりの名前を言葉に乗せた、ら、

「わー、懐かしい!沖矢昴さん!」

私の問いかけに答えたのは質問した相手ではなく、毛利さんで。
ぱん、っと両手を叩いて嬉しそうに笑うものだから。

「あれ、毛利さんも知ってる感じ?」

「うん、一時期新一の家に居候してた大学院生で、めがねが似合うすてきな男の人なの」

相づちを打ちながら工藤君がじとりとした目で毛利さんを見ているのを見て、笑う。
毛利さん、工藤君がすねてるよ。

「大分長いこと会ってないけど・・・・・・沖矢さん元気にしてるかなぁ?」

ふわふわと笑う毛利さん。
なんだ、彼女がこう言うくらいだから、危険な人じゃなさそうだ。
ほんの少しだけ持っていた警戒をあっさりと解いてへらり、笑い返した。

、その名前どこで聞いたんだ・・・・・・?」

毛利さんを見るのをやめた工藤君はおそるおそる問いかけてきた。

「んん、今日赤井さん、都合が悪いらしくて・・・・・・お迎えとか、沖矢さんって人に、任せるって」

覇気のないままつたえれば、がくん、っと工藤君の首が机の上におちた。

「あの人なに考えてんだ・・・・・・」

苦虫を噛み潰したような表情で、溜息を一つ。
と、工藤君のスマホが音を立てた。
彼はそれに目をやると一度、二度、瞬いて、そして小さく笑った。

「ああ、そういうことか」

ぽつりつぶやくと工藤君は起きあがって柔らかくほほえむ。

「昴さんも、赤井さんと同じくらい信用できる相手だから、大丈夫だ」

「そっか・・・・・・工藤君のお墨付きなら、何も心配いらないね」

私の返事に工藤君は照れくさそうに頬をかいた。










「___新一お兄さん!!」

それは子供特有のかわいらしい、と言える声。
大分二日酔いの痛みも和らいだ時分。
沖矢さん、という人からの連絡がスマホに届いたため待ち合わせ場所に5人で向かった、とそこにたどり着くよりも先に聞こえてきたのは幼い声で。
大学には似つかわしくない声に、不思議に思いながらも足を進めれば、そこにあったのはかわいらしい4つの姿、ぷらす温和な表情を浮かべる一人の男。

こちらの姿を見つけた瞬間、ぱっ、と表情を明るくしてこちらに走り寄ってくる少女。
そのすぐ後ろを少年二人が。
残りの少女はこちらに近寄る様子はみせず、男性のそばにたたずんだまま。
その男性と少女以外の姿を、私は知っていた。
喫茶ポアロにくる常連の小学生は少ないからこそ、余計に。

全力で走ってきた少女はその勢いのまま工藤君に飛びついて。
さらにいえば、その少女を工藤君は危なげもなく抱き上げた。

きゃーきゃーと嬉しそうな声をあげる少女をみる工藤君の瞳はひどく優しい。

「新一お兄さんずるいですよー!僕もー!!」

「俺も、俺も!!」

そんな彼らの周りを追いついた二人の少年がぐるぐると回る。
なかなかな体格の子が居るが、工藤君大丈夫?抱き上げられる?
私は無理だよ。

「蘭お姉さん、園子お姉さん、世良お姉さんも久しぶりですー!」

「あ、ポアロのお姉さんもいるー!」

きゃっきゃとかわいらしい挨拶をぼおっとながめていれば、す、っと横に誰かが来て。
見ればそこには色素の薄い髪を持っためがねの温和な男性が、いた。

「初めまして、ですね。さん。赤井さんの代わりに参りました。沖矢昴です」

背は、赤井さんと同じくらい。
でも赤井さんよりも穏やかな口調で、柔らかい表情。
にっこりと笑うその笑顔はどことなく、こう、言っては何だが、ひどく胡散臭い。

「はじめまして・・・・・・です」

よろしくお願いします、と言って良いものなのか。
少々戸惑いながらも返事を返す、と。

「怪しいわよね、この人」

最後の一人、動くことのなかった少女がいつのまにかそばにいて。
茶色の髪を揺らしながらゆっくりと口を開いた。
すらりとした指を男性に向けてぴしり、指し示して。
そう言いながらちらりと私をみた。

「でも、まあ、悪い人じゃないから、安心して」

肩をすくめるその姿はあまり小学生らしくはなく。
けれどその言葉にはどこかうなずかせるような気配を宿して。

「灰原」

いつの間にこちらにきたのか、工藤君が目の前に。
少女に向かって話しかけた。

「久しぶりね工藤君。その後体の調子はどうかしら」

「おかげさまで順調だよ」

まるで同年代と会話するかのような二人の会話。

「久しぶりですね___沖矢さんも」

じとりとした表情で工藤君は沖矢さんを見たけれど、彼は朗らかに笑ってみせるだけで。
どういう関係なのかな、だとか思うことがないわけじゃないけれど___
話さないと言うことは私には不要だと判断したのだろう。
彼らの会話をぼんやりと眺めた。

「___私は灰原哀よ」

、です」

工藤君との会話を終わらせて、するり、猫のようにそばにきた少女は大きな瞳を細めて笑うと唐突に名前を教えてくれた。
名前を返せば口の中でそれを転がすようにつぶやいて___

、さん、って呼んでもいいかしら」

こてん、と首を傾けて問いかけてくる姿はとてもかわいらしく。

「哀ちゃん、って呼んでもいいかなぁ?」

思わず私からもそう聞いてしまっていた。
どうぞ、と頷く姿に思わず笑みがもれる。

「___珍しいな、が下の名前で呼ぶなんて」

工藤君をはじめとした大学の仲がよい子達も皆、名字で呼んでいるからこそ余計に。

名前を呼ぶのが嫌いな訳じゃないけれど___なんとなく、呼びにくくて。
というか工藤君たちはもう今の呼び方に慣れてしまってるだけなところはあるけれど

ぱたぱたと楽しそうに駆けてきて工藤君の手を取る二人の少年。

「新一お兄さん、これから一緒に遊んでくれますよね?」

「蘭お姉さん達も!」

小学生に遊びに誘われて満更でもない様子の同級生達。
哀ちゃんにそこに入らないのか聞いてみたけれど軽くあしらわれて。

「ポアロのお姉さんも遊んでくれる?」

くい、とスカートの裾が引かれた。
そちらを見れば、ふにゃりと笑いながら見上げてくる少女。
かっわいい・・・・・・

もちろん、そう返しそうになった私の口を大きな手のひらがふさいだ。

「すみませんが、ポアロのお姉さんは少し足を怪我していているんです。また今度誘ってあげてください」

ちょっとまて、私への問いかけをかわりに答えないでほしいんだけど、沖矢さん。

少女も残念そうにしながら素直に離れてくれた。
ちょっとくらい惜しんでくれてもかまわないんですけど!?
かわりに、少女は哀ちゃんの手を握って

「哀ちゃんも一緒に遊ぼうね」

ふにゃり、その笑顔に哀ちゃんは仕方がないわね、と笑い返した。

「沖矢さん、さんのこと、よろしくね」

沖矢さんにそんな言葉を発して。
おかしくない?
なんで小学生に心配されてるの?私。

「沖矢さん久しぶりですね!」

「沖矢さん!また今度ゆっくりお話ししましょうね!」

君のこと、お願いするよ!」

3人の女子大生に沖矢さんは朗らかに笑って頷いた。
・・・・・・信頼感はんぱなくないですか?

「沖矢さん、それじゃあ」

「工藤君ストップ」

さらり手を振って去っていこうとする工藤君の首根っこをつかんで制止する。
少々首が締まったようだが、ごめんね!謝っとくから許して!

「なんだよ

じとりとした目をしてきた工藤君を同じようにじとりと見つめる。

「この状態で私を一人にしていくの?見知らぬ人と二人きりで?」

「いや、おまえ赤井さんとは初対面から打ち解けてたじゃん・・・・・・」

脳裏をよぎる、赤井さんとの初対面。
いや、だってあれはさあ、状態が状態じゃないですか。

「それはそれ、これはこれ」

さらっと流してみせれば工藤君の溜息!
私にちょっとしたダメージ。
と、するり、工藤君をつかんでいた右手が温もりにつつまれた。

さん、私では不満ですか?」

手から腕へ、肩へ、そのまま視線を向けていけば、困ったように眉をひそめるめがねの青年。
ひぇ、いけめん!

「う、そういうわけじゃ、ないんですけど・・・・・・」

私の手が離れたことにこれ幸い、とばかりに工藤君は距離をとって。

「工藤君まって、ストップ、笑顔で手を振っていかないで!」

工藤君に伸ばした手すら沖矢さんにつかまれて、なんでかわかんないけど、両手をつかまれて向き合ってるみたいになったよ!なんで!

「では、行きましょうか、さん」

ひぇ!つかまれていた手がはずされてかわりに腰にまわされた!
突然のエスコート!
そのままおそらく沖矢さんの車のほうに誘導される!赤色のテントウムシみたいなかわいいフォルムの車ですね!!
癒されないけど。
嫌みもなく非常にスムーズに車の助手席に乗せられました、早業ですね。

さん、今日はバイトはお休みでしたよね」

自身も運転席に乗り込みシートベルトをしめて。
さらりとハンドルを握りながらそう聞いてきた。

「・・・・・・それも赤井さんから聞いたんですか?」

「はい」

にっこり笑っていい返事ですね。
赤井さん、この人信じても良いっていろんな人からお墨付きいただいたんですが___なんか、こう、信じたくないんですけど・・・・・・

「赤井さんに頼まれていますので、晩ご飯の買い出しも一緒に行きますから」

「りょうかいです〜」

もうどうにでもしてー・・・・・・




「赤井さんとどういう関係かお伺いしてもよろしいですか?」

緩やかに走る車はいつもいくスーパーに向かっていて。
ちらり、横を見れば見えているのか、というくらい細い瞳で前を見ている。
その横顔に尋ねればしばし考える動作をとった後、口を開いた。

「・・・・・・友人?」

「なんで聞いたんですか?」

「・・・・・・家族?」

「もっと近しくなった」

「・・・・・・共犯者?」

「なんで次は物騒になってるんですか?」

そんなに答えにくい質問をしたつもりはないのに、なぜか沖矢さんは口ごもる。
それはかとなく、距離を測りかねる質問に、なんだか聞かない方がいい気がしてきて。

「・・・・・・今日の晩ご飯、なにを作る予定ですか?」

仕方がない、と質問を変えてみる。

「そうですね。さんはなにが食べたいですか?」

「言ったら作ってくれますか?」

「努力はしましょう」

ならば、と思い起こす。
昨日の夕方テレビでやってた料理。
魚介類のうまみを閉じこめた、という奴。
自分じゃ絶対作れないし、魚貝類あまり好きじゃないから自分じゃ絶対食べに行かないやつ。

「じゃあ・・・・・・アクアパッツァとか食べてみたいです」

「わかりました、ではカレーで」

「おい」

前言撤回はやすぎません?
若干の色しか似てないし!

「すみません、あまり料理のレパートリーを持っていないんです」

「赤井さんも沖矢さんも煮込み料理好きすぎません?」

作ってもらう立場だから文句を言いたくはないんですが、言うだけ言わせてください。

「そのかわり、量だけはたくさん作りますから」

量はいらない、量は。

そうこうしているうちについたスーパーにて、沖矢さんの手によってカートに放りこまれていく食材達。
あれもこれも、とすごい量が放り込まれていくのを、後ろについて歩きながら戻していく。
一人暮らしの家にこの材料はいらない。
これも食べない。
どうせ残るならばかわない。

戻しているのに気づいた沖矢さんが少し困ったように眉をひそめて。

「ちゃんと食べないと大きくなりませんよ?」

「どこを見て言ってるんですか?」

人の胸元をみないでください。
ささやかですけどちゃんとありますから!

___なんか、今のやりとり、すごく既視感を感じたんだけれども。

ちらり、見上げた先、食材を選別する沖矢さん。
その姿は、まあ頑張ってみれば赤井さんにかぶって見えないことも___ないか?

「___なんですか?お菓子は3つまでなら許してあげますよ」

「おかんか」

しかも3つって結構甘いですね!
子供できたら甘やかしそう!





おうちにかえると、まだ本調子じゃないんですから座っていてくださいとのお言葉をいただいた。
こたつに入りながら、なぜか勝手知ったる自分の家、とばかりに動き回る沖矢さんを眺める。
材料が切られて、でかい寸胴に___赤井さんが持ち込んだもの___放り込まれて炒められて、水を入れられて、できたものは___

「本当にカレーライスですね!量も多い!」

つやつやのご飯の上、どうだ、とばかりに鎮座する褐色のスープ。
ごろごろと入った野菜とお肉が食欲を誘う。

向かいに座った沖矢さんにいただきますと声をかけてスプーンを手に取る。

掬って、口に入れて、咀嚼して___この味は、最近食べたばかりのものだと、実感する。
やっぱりこの人は___

「___ジャガイモはちゃんと切ってあるんですね___リベンジ成功ですか?」

にっこりと笑いながらじゃがいもをすくい上げて目の前の人物にみせる。
そうすれば目の前の彼もにっこりと笑顔を返してくれて。

「___なんのことですか?」

隠す気のない、わかりやすいとぼけ方。

先ほど車の中で言いよどんだ理由がわかった。

友人と言うには遠すぎて
家族というのは近すぎて
共犯者がきっとこの人を言い表すのに一番ふさわしい言葉

「とてもおいしいです、おかわりしても、いいですか?」

だからこそ、私もとぼけてみせた。


「食べたらお風呂、それが終わったら湿布をはりますから」

運ぼうとした食器は沖矢さんの手によって持って行かれて。
手持ちぶさたになった私にかけられた声。

はぁい、と返事を返して簡単にシャワーを浴びて。

ほかほかの体で出てきた先。
手際よく並べられていた湿布を張られて包帯を巻かれて。
慣れた仕草。
それはここ数日で見慣れた手際の良さ。

ぼんやりとそれを眺めていれば、めがねの奥細まった瞳がこちらを見ているのに気がついて。
じいっと、見返す。
この瞼の奥に潜んでいるであろう宝石のような緑色を思いながら。

「なにも___なにもきかないんですね」

柔らかな口調に込められた想いはいかほどか。
困ったような表情は沖矢さんのもので。

「聞いたら困るくせに」

ぽつん、と落とした言葉。
それに対して沖矢さんはやっぱり困ったように笑うだけ。

ぽん、と湿布を張り終わった肩を軽くたたいて立ち上がった彼はゆっくりと車の鍵を手に持って。

「___何処か行くんですか?」

こんな時間に?
言外に込めた疑問を性格に把握すると彼はことん、と首を傾けた。

「帰るんですよ?」

なにを言っているのか。
そんな表情をされたけれど、その表情をしたいのはむしろこっちだ。

「泊まっていかないんですか?」

自然にこぼれたその言葉に、沖矢さんは一瞬口を閉ざして___

「___初対面の相手をほいほい泊めるような子に育てた覚えはありませんよ?」

などとのたまった。

「育てられた覚えもないですね」

思わず切り返して、再度そのめがねの奥を見透かすように、見つめた。

「___だって、赤井さんが信じる人ですもん。なにも、しないでしょう?」

ぐ、と一瞬だけ息を止めるように彼は息を詰めて。
そうして、おでこを左手の平で覆うようにすると、ため息。

「あなたにそれほど信用される赤井さんが、少々うらやましいですね」

「うらやましい?赤井さんが?」

うらやましいだなんて、滑稽な言葉だ。
だって、それは、それは___

「ええ、あなたにそんなにも想われて」


そう、想っているのだ。
想って、いるんだ、彼を、赤井秀一さんを。

昨日告げた想いに、何一つ偽りはないのだもの

かちゃん

閉じこめようとしていた気持ちは、あっけなく、溢れた。

「___そうですね、私は赤井さんを想っていますよ」

手を伸ばす。
彼の首もとに。
そうすれば、いつぞやの赤井さんのような素早い反応。

「___すき、ですよ、あの人が赤井秀一さんが」

見た目に似合わなくても甘味が好きで、料理が好きで、食べるのが好きで、家族が好きで、そして、実は不器用な人。

「すき、で、同時に、わかってるんです。1週間でさよならだから、深入りしちゃいけないって」

関わりすぎちゃいけない、好きになりすぎちゃいけない。

「私みたいな子供じゃ、あの人が抱えているものだって背負えない」

重たい荷物を下ろせるような、分かちあえるような。
そんな大きな存在に、なれはしない。

さ___」

伸ばされた手を、後ずさることで避けて。
へらり、笑う。

「だから、沖矢さん___この気持ち、赤井さんには内緒にしといてくださいね」

笑え、笑え。
偽りを浮かべて。


この人は、沖矢昴さん。
赤井秀一さんじゃ、ない。


たとえ、中身が同じ人物だとしても、きっとそれはこの人の中で正解ではないから



だから、これは、告白ではない。






















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