土井先生
さわり
風がやわらかに通り抜ける。暖かなひだまりに訪れそうになる眠気をそっとやり過ごし目の前の背中を見つめる。
「・・・どいせんせー」
「なんだ?」
名を呼べば帰ってくる返事。でもこちらを見てはくれなくて。
「・・・はんすけさーん」
そう呼べばびくり、一度肩を震わせて、答えあわせをしていた筆を取り落とす。
「っ、というか、まだくのいちは授業中だっただろう?!何でここにいるんだ?!」
でもこちらを見ない。それどころか帰れ、との意味がこめられた言葉。
そんなの会いたいからだと決まっているというのに!
「そんなにかまってくれないなら、利吉さんとこ行きますよ?」
その言葉にぴしり先生の背中が固まった。
ふわり新しい風が部屋に吹き込む。と、
「もらっちゃってもいいんですか?」
突然背後から聞こえてきた声。体に回るぬくもり。
背後をとられたことよりも、抱き締められたことのほうが衝撃で。
「おや、まあ・・・利吉、さん。こんにちは。」
「ああ、こんにちは。」
思わず普通に返事を返していた。
「つれてって、くれます?」
その端正な顔を見上げて呟けばふわりさわやかな笑み。
「お姫さまが望むならどこへでも。」
その言葉がうれしくてやんわり頬を緩めれば、利吉さんもさらに笑む
「だめ、だよ。」
二人だけの空間みたいになっていれば、とつぜん引っ張られた体、
後ろにはさっきとは違うぬくもり。低く腰にくるような、声。
「だめだよ。これは私のだから。」
聞きたかったその言葉に今までで一番の笑みがこぼれた。