三郎










「雷蔵君」

廊下を歩いていれば、後ろからかけられた声。
またか、そう思いながら振り向く。もちろん顔には『雷蔵』の笑みを張りつけて。

「何かな?」

振り向いたそこにはさらり長い黒髪を耳に掛ける仕草をする一人の女子生徒。 どこかで見たことがあるのだが、誰だったけなあ。

顔に笑みを浮かべながら頭では覚めたことを考える。みんなみんな私と雷蔵を見分けられない。 (豆腐とかぼさぼさ頭とか勘とかは別だが。)それなのに好きだとかなんとか言ってくる奴が多くて。

「図書委員のことなんだけど」

ああ、雷蔵と同じ委員のやつか。そう思いながら何かあったかな?と首を傾ける。
雷蔵ならこうするだろうから。

「〜ということなの。」

気づいたら終わっていた話しだが、内容は頭に入っていたからまあいい。

「ああ、そうそう」

まだあるのかとげんなりしながら(もちろん顔には出さない。)彼女を見ればなんとも艶やかに微笑む顔。
「今のちゃんと雷蔵君に伝えておいてね?三郎君。」
そういって颯爽と去っていく彼女に一瞬思考回路が奪われた。

「・・・あいつわかってたよな?」
やられた。そう思ったのは彼女の姿が消えてからだった。