友人の希望による長次夢二作品。
「中在家、長次、先輩・・・」
その名前を何度も口の中で転がしてみる。
まるで砂糖菓子のようにその名前は舌の上でとろけて消える。
甘い甘い金平糖のように、ころりころり体中に沁み渡る。
その名前を呼べるだけで幸せというものが形をなして私の中に生まれるのです。
始めて出会ったのは高校に入学してすぐの図書館でした。
ずっと読みたかった本がこの図書館にあるのを知りそれを探しに来た時。
図書館の中で騒いでいた男の子たちに向かって飛んでいった図書カード。
それを投げた中在家先輩のあの鋭いまなざしに一瞬で心を奪われました。
そうしてそのことがきっかけで私は図書委員に入り中在家長次先輩と共に委員会活動をしているのです。
「、どこかいくのか?」
「うん、中在家先輩のところに行ってくるね。」
「?今日は委員会休みだった気がするが?」
「そう。でも忘れてて借りてた本持ってきちゃったから返しに行ってくる。」
昼ご飯を食べ終わって、惰眠を務ぼっている綾部喜八郎を呆れた顔で見ていた滝夜叉丸が私に聞いてきた。
それにそう返して向かうは6年の教室だ。
「ええと、中在家先輩は・・・」
先輩の教室の前、ひょこりと先輩の姿を探してのぞきこめばそこに望んだ姿は見当たらなくて。
「・・・どうしよう。」
せっかく来たのだから一目でも会いたいなあと思いながらもいないのであれば仕方がない。
明日は委員会がある。
また明日にしよう。
そう思い、覗き込むのをやめて教室に戻ろうと振り返れば目の前にじいっと私を見つめる二つの瞳があって。
「!」
驚いて後ろにのけぞればその人はぐぐいとさらにこちらに詰め寄る。
「4年だよな?滝と一緒の上履きだ。この教室に何か用か?」
(ちかいちかいちかい!)
質問されたところで頭はパニックを起こしていて答えられない。
あわあわと視線を辺りにさまよわせれば、ぴたり、吸い寄せられるようにある場所に視線が移る。
「っ、中在家せんぱぁい・・・」
目の前からの視線に耐えられなくなりながら、見つけた人物の名を呼ぶ。
探していた先輩の名を。
「・・・?」
ようやっとそこで中在家先輩は気づいたようで私の名前をつぶやいて。
「ん?長次の知り合いか?」
目の前の男の人は至近距離のまま首をかしげた。
「・・・委員会の後輩だ。」
「そうか!私は七松小平太だ!」
「え、と・・・」
「・・・小平太、近い。」
名前は?そう問われて答えるに答えられないくらいの近い距離にまじめにどうしようかと迷っていればひょい、と高くなる視線。
「わ!」
それは一瞬で元の高さに戻ったのだけれども、先ほどと違い目の前には中在家先輩の背中。その向こうに七松小平太、という人が見えて。
・・・よく考えなくても、中在家先輩に、持ち上げられた・・・?
それを認識した瞬間、ばふん、と顔が沸騰するように熱くなるのを感じた。
「なんだ、長次、もう少し見せてくれてもいいだろう?」
「怯えている。」
「小動物みたいだ!」
なんか先輩たちが言っているのも耳に入らない。
それよりも、重くなかっただろうかとか、そんなことしか浮かばなくて。
「・・・。・・・」
「!はいっ!」
いきなり呼ばれた名前に驚いて顔をあげて、先輩との顔の近さにまた驚いて、その様子を見た中在家先輩が微かに微笑んだのを見て、私の頭はまじめにショートした。
『その不意打ちは卑怯です!』
※※※※※※※※※※
「長次先輩!今日もかっこいいですね!」
その言葉を言い放った瞬間無言の先輩から全力の図書カードが投げつけられた。
「今日の敗因は他の図書委員がいたことだと思うんだよね。」
「どうして?」
「長次先輩恥ずかしがり屋さんだから!」
「いや、それ以前の問題だろう・・・」
教室で喜八郎と滝にむかって言い放てば滝のげっそりとした返事が帰ってきた。
「何さ滝!そんなに私と長次先輩ね仲が良いからって嫉妬してないでよね!」
「してない。」
「私と長次先輩は前世からつながってるんだからね!」
「運命の人?」
「ざっつらーいと!喜八郎!」
喜八郎に人差し指を突き刺しながら言う。ご褒美に頭を撫でてやれば無表情に嬉しそうに笑った。(器用な奴だ)
「いや、それはそれで・・・」
「何さ、やっぱり嫉妬?滝!」
滝は相変わらずお母さんみたいだ。(ちなみに以前喜八郎と二人して滝をままと呼んだら全力で怒られた。)
「ちがう・・・というか、なんで三之助さがして図書室にいったんだ?!」
「呼ばれた気がしたから!」
「誰に?!」
「長次先輩!」
「三之助はどこにいった?!」
何を当たり前のことを!
「だから、私と長次先輩はーーー」
「の運命の人ドアのとこでずっとまってるよー。」
「きゃー長次先輩!私に会いに来てくれたんですか?」
喜八郎の言葉にぐんるりドアを見れば呆れたような無表情の(そんな顔も素敵)愛しの先輩。
「先輩、今日もまた素敵です!あ、ご用事は?先輩のためなら何でもしますよ!あ、もちろんここじゃ話せないことだと言われるのでしたらどこまででもお供いたしまっす!」
一息でそこまで言えばぺしり、頭に軽い衝撃。
せ、先輩が私にさわった!うわわわわ!どーしよー!え、これどうするべき?!
軽い混乱に陥っていればふわり振ってくる先輩の低い声。お、落ち着く・・・・
「・・・、これを貸してやる。」
そういって渡されたのは一冊の本。しかもそれはずっと前に絶版になって手に入らなかった大好きな作家さんのもので。
「っ、これ?!」
驚いて先輩の顔を見上げればかすかに口の端をあげて微笑んでいて。
「っ、」
「、図書室では静かに。」
少し身を屈めて耳元でそうささやかれて。
去ってい先輩を見つめながらずるずると座り込んだ。
「おい、?!大丈夫か?」
一部始終をみていた滝があわててかけよってくる。
「っ、かっこよすぎ、る・・・」
そしてその言葉を聞いたとたん力が抜けたように脱力したのだった。
前者は図書委員、後者は体育委員設定。