ドリーム小説





誰か私の名前を呼んで 1








「あのね、ユーリ、っていうのよ」


ふわりふわり、笑う妹が、私に紹介してきたのは一人の男の人。
男にしてはひどく長い髪。
黒く艶やかに光るきれいな髪。
紺色の瞳は強い意志を宿して、前を見据える。
その瞳は妹を写して、ふわり、笑む。


この人なら妹を預けてもいいかな、そう思えるくらいには、優しくて強い人だった。





この人が、姿を消すなんて、思ってもみなくって。




妹がしかたがないの、って笑うことが、信じられなくて。
妹をおいていったあの人が許せなくって。




だからこそ、突然、目の前に知らない風景が広がって、その風景の中に、あの人がいたのを見た瞬間、なんの躊躇もなくその世界に飛び込んでしまった。
妹を泣かしたんだから、十回くらい殴らないと気が済まない。




_ユーリさん!_

飛び込んだ世界で、その黒い人の名前を呼ぶ。
否、呼んだはずだった。
怪訝そうに振り返ったその黒が、私をみて、まるで妹をみたかのようにきれいに笑った。

「桜!」

手を伸ばされて、だきよせられて、耳元で何度も名前を呼ばれる。
妹の、名前を。

_違う!_

叫んだはずのその声は、空気を微かにふるわせただけで、音として世界に降り立つことはなく。

「桜、なんでここに?いや、でも、またあえてすっげーうれしい」

きれいに本当にうれしそうに笑う彼。
ちがうちがう、わたしは桜じゃない!
確かに双子の私たちはそっくりだけど、私は、桜じゃない!!
どんなに叫んでも言葉は発せられず、彼もまた、その違和感を感じ取る。

「どうした?桜。・・・もしかしてはなせなくなったのか?」

桜ではないけれど、それは事実だったのでうなずけば、瞬時迷った表情を見せた後、まるで安心させるかのように彼は笑った。

「俺が向こうに行ったときと同じだな。あのときは俺は一時期耳が聞こえなかったしな」

初めて知る事実に驚くが彼はそのまま私を抱きしめ続ける。

「大丈夫、すぐもとに戻るから。おまえが向こうの世界に戻るまでは俺が守ってやる」


ちがう、ちがうよ、私は桜じゃなくて

あなたに守られるための存在じゃなくて

私はあなたを、殴りにきたのに、妹を泣かせたことを、怒りにきたのに

そんな優しい顔で、笑顔で、瞳で、私をみてきたら、違う、なんていえなくなってしまう







誰か私の名前を呼んで
















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