ドリーム小説
誰か私の名前を呼んで
「ね、一緒においで、ちゃん」
誘惑は甘く甘く、
ぐったりとした姫様を抱えたレイヴンはふわり、笑う。
いつものように笑わない瞳で、私をみて。
手を伸ばして、私の本当の名前を呼ぶ。
その手に逆らう必要性など、私には見いだせなかった。
「桜!エステル!!」
名前を、呼ばれたけれど、それはもう私の心に響くものではなくなっていて。
レイヴンさんの後ろにそっと隠れ直す。
姫様の悲鳴が聞こえるけれど、それも私にとってはどうでもよくて。
「だって、私は、桜じゃないもの」
いつからか、声は戻った。
けれどもそれを告げようと思えるほどあなたたちに心を開けはしなくて。
私が声を出したことにか、私が発した言葉になのか、信じられないと瞳を見開くあなた。
何度だっていった。
私は、違うと。
届かなくても、何度も何度も。
ちゃんと私をみて、私の名前を呼んでくれたのは、レイヴンさんだけだった。
だから、私はレイヴンさんと一緒にいたいって、そう思えたのよ。
私は桜じゃない、私はだよ。
ふわり、私に触れるレイヴンさん。
いつもと違う橙色がやさしい。
私を勘違いし続けたあなたよりも、あなたたちにとっての裏切り者であるこの人のほうが私にとっては信じられる人なの。
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