ドリーム小説
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「気をつけてな」
最後にかわしたのはそんな言葉。
気がついたときには、私の小さな箱庭の世界は大きく変化していた。
薬草をグランコクマに買いに行く。
その役目をさずかって。
意気揚々と向かったのに。
グランコクマで聞いたのはホド崩壊という知らせ。
いったいなにが起こっているのか理解できなくて。
今日の朝、母が行ってらっしゃいと笑って手を振ってくれたのに。
父が、気をつけてと送り出してくれたのに。
残る声が急速に色あせる。浮かぶ笑顔がじわりにじんでいく。
ホド崩落
そうして私はそのときに初めて、この世界のことを理解した。
海の向こう見えていた祖国は、もう見えない。
生まれたときからもっていた記憶。
ずっとずっと夢だと思っていたその記憶は決して偽物では、なかった。
そうして、時は流れゆく___
「・・・迷った?」
右を見ても左を見ても、広がるのは緑色。
片手に持った地図を右に左にくるくる回して、ついでに自分の首も回して。
そうして一言つぶやいたのはそんな言葉。
語尾を上げる疑問文ということは、残念ながら自分で理解していない、否、理解したくないようで。
「むむむ・・・」
地図を持ってうなって考えて。
「・・・ま、どうにでもなるでしょう」
あっさり、地図を腰に回してある鞄にしまった。
「この森の一番奥に珍しい薬草があるんだよね」
さくさく、地図を見るのをあきらめた彼女は何の迷いもなく足を進めていく。
時折自分の体に魔物が嫌う薬草を振りかけながら草をかき分け進む。
「・・・なんか、いつもより森が騒がしい気がする」
時折訪れるこの場所であるが、今日はいつもと違う雰囲気を感じる。
そうは思いながらも自分に害がなければ、目的を達成できればいいか。
そのように思っているため深くは考えることもなく。
「・・・?」
目的地から小さく言い争う声が響いてくる。
同時に響く、低い獣の声。
ちらりちらり、緑の間から見えるのは鮮やかなまでの赤。
一瞬、目を奪われて。
次いで気づく。
目的地はその方向だと。
がさり、茂みをかき分けてそちらへ行けば数匹の獣と一体の大きな獣。
そしてそれに向き合う三つの影。
一つは先ほどみた鮮やかな赤をその髪に宿し、一つはたっぷりとしたあまいろ。
その後ろに隠されるように立つのは緑色。
がさり、響いた音に気がついたのは、一番近くにいた緑色。
それは彼女を見て驚いたように目を開き、次いでかすかに警戒の色をにじませた。
肌は白く緑色の鮮やかさを際立てる。
顔立ちは柔らかく、みただけでは男か女かわからない。
けれどそれよりも、彼女の意識は目の前の大きな獣に向いていて。
「うわー!ライガクイーンだ」
その瞳はきらきらと輝き興奮していることが伺える。
「ライガクイーンの毛はいい薬になるんだよね・・・!」
宝物を見つけたみたいにわくわくとした足取り。
それはまっすぐに大きな獣、ライガクイーンに向けられていて。
「ま、待ってください!」
ふらふらと誘われるようにライガクイーンへと足を進める彼女にぎょっとしたように声をかけたのは緑色だった。
ゆるり、止めるように緑が彼女の腕をつかめば、ようやっとその存在に気がついたかのように足を止める。
きょとん、そんな表現がよく似合う顔をして彼女は緑を眺める。
「今ライガクイーンは産卵期で気が立っています。不用意に近づいては___」
その言葉に彼女はにへら、と形容しがたい表情で笑った。
「心配ありがとう。でも大丈夫だよ」
あまりにも気が抜けるような笑みを浮かべるものだから、緑の手の力は弱まって。
「ライガクイーン」
するりと猫のようにすり抜けて、再び彼女はクイーンへと進む。
呼ばれて殺気だったそれは低いうなり声と共に彼女へと向けられて。
「大丈夫。わたしは君を傷つけない」
懐から出した小瓶。
その中にはいった液体がゆらり、揺れる。
「おい!お前危ないから近づくなよ!」
一歩一歩、近づいていく彼女に、元々クイーンの相手をしていた赤髪が声を上げる。
それに笑い返して、足を進める。
今にも飛びかかってきそうなクイーンの前に立ち、ふわり笑う。
「クイーン、しばしお休み」
きゅぽん、開けた瓶の中身をあたりに散らす。
それに警戒し姿勢を低めたその大きな体はそのにおいをかいだ瞬間その場に倒れ伏した。
「ごめんね、ちょっともらいます」
倒れたクイーンになんの躊躇もなく近づいてその毛をどこから出したのかわからないはさみで小さく切り取った。
鼻歌でも歌い出しそうなくらい機嫌が良さそうだ。
「・・・あの、」
「あ、さっきはありがとう。しばらくは起きないから今のうちにどこか行っちゃう方が得策かと思います」
そっと近づいてきた緑にふわり、笑って返事する彼女。
ちなみに赤髪はぽかんと口を開けたまま呆然としている。
「イオン様、お下がりを」
緑と彼女の前に立ちふさがったのはさっき見た栗色の長い髪の女性だった。
「さて、私はそろそろ退散します」
発せられる警戒の空気に苦笑いをして彼女はくるり、来た道を戻ろうと足を出した、瞬間。
「おや、なんだかおもしろいことになっていますねえ」
柔らかな声色。
でもそこに潜められるのは警戒。
向かおうとした先に立ちふさがるようにたつのは青い軍人。
にこり、笑うめがねの奥はひどく冷たい色。
「では私はこれで」
そのなんともいえない空気に耐えきれなくなってでは、と手をふり歩き出そう、とした。
が、がしり、軍人の横を通り過ぎようとすれば腕に負荷。
「少々お話を聞かせていただけますか?」
・・・ですよねー。
だがまあおとなしくそれに従う気もないわけで。
「ごめんなさい。先を急ぎますので」
ていっ、と懐に潜ませていたとある物質を取り出し、投げつけた。曰く、煙玉だ。
ぶわり、広がった煙に視界をふさがれているであろう瞬間、体をひねり逃げ出した。
それこそ脱兎の勢いだ。
薬だけで生計を立てている自分にとって戦闘なんて命がけなことできるはずもなく。
そんな彼女にとってできることといえば、全力で逃げることだけだったのである。
※※※※
やりたいとこだけをちょちょいとやってく連載。
サイトに出さないとたぶん書かないから自分の首を絞めるつもりで出してみた。
気長に待ってもらえると嬉しい。
だがしかし、ゲーム手元にないんだ。
ということで、若干セリフがあやふやだったり。
ついでに言うとメモに乗せてるアビス主とは違う子。
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