ドリーム小説





すべてはもう遅すぎたから

















「な、んで・・・」



目の前の大事な友人が、常では考えられないようなかすれた声を出した。

私を見て、信じられないみたいに、瞳を揺らす。

私という存在が、あなたに影響を与えているというその事実に、こんな時だというのに気分が高揚して。

ふわり、笑って見せたのは、ちゃんと笑顔になっているのだろうか。



あなたの顔が、かすかにゆがむ。



とてもとても、やさしいあなた。

何もできなかった私の手を引いてくれた。

何も知らなかった私の世界を広げてくれた。


とてもとても、温かい人。


名前を呼ばれるだけで、心臓が音を立てた。

笑顔を向けられるだけで、幸せになれた。

人を助けることができるその腕が、とても愛しかった。




あなたが生きているだけで、うれしかった。







「かわいいだろう?私の大事な道具の一つだ。」





思考は自由に動くのに、私の体は不自由で。







ユーリが下町から出て行って、少ししてから、私はこの人のもとに連れて行かれた。

とても優しく笑ったこの騎士は、その笑みのまま、私の心臓を止めて。

何が起こったのか、理解できないまま、私は刃を手にしていて。

痛みと苦しみでもうろうとする意識。


目の前の、あなたを、認識することしかできないの。



ごめんなさい

ごめんなさい、ユーリ。



あなたは私をたくさんたくさん助けてくれたのに。


私はあなたの枷にしかなれないみたいです。




私の望みとは相反して、体は刃を振りかざす。

口から言葉が紡がれる。


言葉は刃となり、大好きなユーリを、その仲間たちを傷つける手段へと簡単に変わっていく。


今までできなかったことが、なんでもできるようになった。


弱い体は強くなった。

魔法が、使えるようになった。

倒れることも、なくなった。






それと引き換えに手に入れたのは、あなたを傷つける方法。








綺麗な、とてもきれいな黒髪が、世界を舞う。

意志の強いその瞳が、苦しみを隠すかのように小さく揺れて。


その手に握られた刃が、まっすぐに私へと向けられる。







ごめんなさい。

ごめんなさい、ユーリ。



名前を呼びたい。

名前を呼んでほしい。



それでも自由の利かないこの体ではそれすら難しくて。




やさしいあなた。

操られたままの私を止める方法が、一つしかないってわかっている。




だからこそ、自分の手で、と。





ごめんなさい。


ユーリ。







あなたを傷つけることしか、できなくて。









   きっと、あの時、あなたが、私を一人置いて行かなければ、こんなことにはならなかったのに。

    私の体を心配しておいて行ってくれたことは知っている。

      それでも、一人にしなければ、私はこの騎士様に、何をされることもなかったのに。




大好き、大好きだったの、ユーリ。







自由の利かないからだに、もう、思考すら飲み込まれていく。





だから、どうかどうか、あなたをこれ以上憎んでしまうその前に



私が私であるうちに










どうかあなたの刃で終わらせて



























※※※※
体が弱いヒロイン。
ユーリに守ってもらわないと生きていけなかった存在。
それでも、旅には連れていけないからと別れたそれが、運命の分かれ目。
アレクセイによって一つの道具となってしまったお話。


だいすきだいすき、だいすき。
でも、おいて行かれてしまった。
連れて行ってくれたなら、こんな風にならなかったのに。
連れて行ってくれなかった、ユーリは嫌いよ。







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