久々知兵助


(げ、目が、あった)

用もなく木の上に登って辺りを観察していただけ。
気配だって消してたのに、なんでこっちに気がつくかな。

あった視線を無理やり外してため息。
ただ目が合うだけならいいのに、きん、と込められる殺気。

それは明らかにあたしに向けられていた。

彼一人であればただ、何の感情もない瞳で見るだけの彼は、後輩や彼の友人たちが近くにいると変化する。

守るように、あたしを睨む。

そうなるのは彼だけじゃなくてむしろ忍たま全員に共通していること。


だけど  そう仕向けたのはあたしたち


それに対して後悔も何もしてない。
ただ、かなしいなあ、とそれだけを思う。

ふわり

風邪によって運ばれた火薬のにおい。
花をかすめたそれにそっと、もう一度だけ彼の方を見た。

とくん

微かに俯いた彼の横顔はどこか苦しげで、悲しげで。
金色の髪を持つ後輩がそっと彼を覗き込んだ、
それに何でもないと首を振って笑ったから

ああ、なんて、綺麗な笑み。


(あたしにはもったいない、ね)