善法寺伊作






目の前に広がる不運のあと。
転がる白い紙は彼の軌跡のよう。
探さなくてもわかるそれらをぼおっとしながら眺める。
穴掘り小僧とよばれるあの四年生の掘った穴がそこらじゅうに見える。
そのどこかに落ちているのであろう。

わかっていても自分には助ける気などさらさらない。
自分はこの場所で彼らにかかわることなくひっそりと戦忍びとしての知識を蓄えるだけなのだから。

けれどもそっと脳裏に浮かぶ彼の笑顔。
またやっちゃったといって笑う笑みは太陽の下輝いていて。

まるで汚れ泣き幼子のようなその笑み。

幾度となく目にしたそれに無意識に救われていた自分がいたのを知っている。
醜く穢れたこの身を赤黒く染まったこの手を彼のその笑みだけが浄化してくれる気がして。
彼自身も幾度となく紅に染まったのであろうにそれを悟らせない強さを持っていて。
この男であればいつまでも穢れることなくあれるのではないかと錯覚してしまうのだ。

人の命を奪うその手で人の命を救う彼であれば。


彼に触れればきっと自分は弱さを手に入れてしまう。

だからこそ自分は彼に触れることなどしてはいけないのだ。

彼のそばに近寄ってはいけないのだ。

でも、それは建前。

だって本当は知っている。

近寄って手に入れて、失うことが怖いのだ。

自分の手で彼を汚すことが恐ろしいのだ。


そろそろ来るであろう彼の同室者。
その男に姿を見せないうちに姿をくらませた。



(この世界で一番恐ろしいのは自分だ)