綾部喜八郎




だあいせいこう

その言葉と同時にぽかり空いた蒼い空に影がかかる。

逆光となって見えない顔だがその表情はいつものような無表情なのだろう。

いつも、そう述べることができるくらいに私はこの先輩の罠に落ちている。

否、たあこちゃん、にだ。

落ちるたびひょこり顔をのぞかせる先輩はそのまま私を助けることもなく姿を消すのだが。

出して、と叫ぶことはできたがそれをしても無意味だと知っていたのであきらめのため息をついた。

残念ながら先輩の思考回路は私にとって理解不能だ。

今日も今日とてこの先輩はその蒼い空を背景にきらきらした髪を反射させながらこちらを見てくる。

その無表情というものが私をどんなに恐怖に陥れるかわかっているのだろうか。

「おやまあ、今日は出して、って叫ばないんだねえ。」

きょとり

珍しいことに先輩は私に声をかけてきて。

「つまらない」

変わらぬ無表情のまま毒を吐く。

「泣き叫ぶ様が面白いというのに」

あっけにとられたままの私を見下ろしたまま再び彼は言った。

「ねえ、可愛い可愛い兎さん。次も穴にはまってね」

妖艶ともいそうな言葉を残して彼はそこから姿を消した。


「本当に意味がわからないです・・・」

くしゃり歪んだ視界を閉ざすように膝に目頭を押し付けた。




(ひどいひどい、わたしはなにもしてないのに)