七松小平太
ふわり暖かな日差しに屋根の上からそっと辺りを見渡した。
ざわざわとゆれる空気は今がもう放課後であることを示していて。
ふわり夏の匂い。
空の太陽よりも眩しい向日葵のような笑みが地上でこぼれた。
それは決して私に向けられることのないもの。
あなたが後輩たちに向ける笑みと友人たちに向ける笑み。
そして私たちに向ける笑み。
それは似ているようで全く違う。
あなたが後輩に向けるのは慈しみ愛し、これからを憂うような笑み。
これからを乗り越えられるようにさとす笑み
友人たちに向けるのは絶対的な信頼と共に生きてきた互いをたたえる勇ましい笑み。
そして時折甘えるような温かな笑み。
けれど私たちに向けるのは何もこもらぬ笑み。
それは女だからとさげすむものではなく
かといって信頼がこもるものでもない。
ただ、あるだけのえみ。
けれども
これからさき忍びとして生きて行くにはそれで十分。
あなたは優しい人。
私たちくのいちに要らない想いを持たせないよう、笑みという仮面で心を閉ざす。
私たちくのいちに近寄らないよう、笑みという鎧で心を隠す。
そんなあなただから私は惹かれてしまったのです。
決して口に出すことはしないけれど、秘めた思いなどとかっこよく言うつもりもありませんけれど、
ただ見ることだけ許してください。
決して私に向けられることのないその笑みを。
(地上で咲き誇る太陽はいずれ闇へと消え去るのでしょう)