伊賀崎孫兵


「帰っておいで、じゅんこ」

その声は背中をぞろりと這うようにあたしの中に沁み込んできた。

鋭い瞳はそのままあたしを見つめ続けて

その白い手だけが慈しむように赤に触れた。

「それは食べてもおいしくなどないよ」

それ、というのはまちがいなくあたしのことだと思うけれど

そのことに怒りを覚えるほど子供なわけじゃない。

「そう、いいこだね、じゅんこは」

するりその腕に巻きつく赤を愛しげになでて

彼女にだけ見せる笑み

くつり

喉が渇きを訴えるように音を立てた。

その笑みがあたしに向くことなど一生来ないとわかっているのに。

「せんぱい。はやく医務室へと行くべきですよ。」

こちらにくれるのは冷たい笑み。

「あなたがじゅんこに何をしたかは知りませんが。」

あなたの腕の赤が首をもたげてあたしを見据える

「この子は害を持たぬ者に牙をむくほど考えなしではない」

違う違う

ただ、こんなところにいるのならばあなたの元に連れて行ってあげなければと、

そう思って、ただ、そう思っただけで。

決して、害をなそうなどとは

くるり踵を返して姿を消したあなたをあたしはただぼおっとみつめた。

でも本当は


(その子がいなければと思ったのも事実)