潮江文次郎
珍しいこともあるものだなあ。
ひょいと覗き込んだ六年長屋の縁側。
そこに横たわる緑の影に思わず目を瞬かせた。
学園日忍者していると言われる彼がこんな風に転寝をしているなんて。
そっと気配を忍ばせてその顔を覗き込む。
連日の徹夜の名残が色濃く残るその顔。
こんなに近づいても起きないとは本当に珍しい。
こうやってみていれば普通の15歳の少年に見えるのに。
そう思いながらその顔を見つめ続ける。
微かに眉がひそめられる。
起きたのかと思ったが少し様子が違って。
「・・・___、すまな、い・・・」
ぽとりつぶやかれた名前。
記憶にはなかったその名前。
でも、知っていた。
この間の実習で帰らぬ人となった者の名前だ。
そうか、この男と組んでいたのか。
忍びなれば通る道。
そうは思っていてもまだ心までは闇に染まりきれない。
謝る言葉は自分が生き残ったことへの懺悔か
それとも助けられなかった者への後悔か
いずれにせよ、自分にはどうしようもないもので。
忍びに不要といわれる心。
それはいつになれば消えるのだろうか。
いっそのこと消えてなくなってしまえば楽なのに。
そうすればあんたは傷つくこともなかったろうに。
変に優しいから、見ていていやになるよ。
(不要なのは感じる心。さっさとなくせればいいのにね。あんたも、私も)