次屋三之助


「あれ?」

「おやま」

からり

勢いよく開いた襖の向こう。

見たことはあっても話したことはなかった一人の黄緑

「・・・なんでくのいちが三年長屋にいるんだ。」

「お言葉ですがここはくのいち長屋です。」

忍たまの三年生。

無自覚方向音痴で名を知らしめるその人はいぶかしげに瞳を眇めて問いかけた。

「いや、ここは忍たまの三年長屋だ。」

はっきりときっぱりと確信を持って返されたその言葉にため息。

「では声をあげてもよろしくて?」

ここはくのいちの居住区。

男である忍たまが立ち入ることは禁じられている。

私が声をあげれば先輩方や後輩たち、同級の子も皆飛んでくるでしょう。

そう言う思いで言葉を紡げばきょとり首を微かに傾げた黄緑色。

「あげたところで来るのは俺の友人たちばかりだと思うけどな。」

何処まで言っても無自覚をつきとおすらしい彼にはあ、と再びため息。

そして

「くのいちの長屋に忍たまがいるわ!!」

思い切り叫べば音もなく現れたたくさんの桃色。

「何処!?」

「大丈夫!?」

「何もされてない!?」

けれどもその桃色たちよりも先に黄緑は姿を消していて。

あらまあ、何とも将来が有望なお方。

そう思いながら心配げな声をかけてきた同級に笑みを見せた。



ごめんなさいね。

あなたが迷子なのはわかっていたけれど。

この場所にいる皆に害あるものをおいてはおけないの。

そうして脳裏に映った黄緑を焼き消した。


(まあ、かかわることなどもうないでしょうけれど)