四郎兵衛
にこにこにこにこ
言葉にするならそんな音。
君は思いもしないくらい楽しげで。
そうして私の後を追ってくる。
「なんか、用か。」
ぶっきらぼうに聞けば、ふるり頭を振って違うよ、と返事。
でも、その顔は相変わらず笑顔。
でも、その目は相変わらず自分を見る。
「ならば私を見るな。」
「どうして?」
それにこてり、首をかしげて上目づかい。
それは明らかに自らの顔のよさ、可愛さを最大限に引き出せる方法だと知っていてやっているのだろう。
うわあ、将来が楽しみだこと。
げんなりとあからさまに迷惑だという顔をして見せても、君はまったく表情を変えない。
むしろさらに楽しそうに笑う。
「ねえ、そんな顔しちゃうと綺麗な顔がもったいないよ?」
ふにゃり
そんな笑顔と共に落とされる爆弾は、体の温度を上げて行く。
「まあでも、そんな顔も可愛くて好きだけどね」
それはたぶん確信犯。
そう言いながら目を細めて、今度は上から見下ろすように柔らかな声。
赤くなっていく顔を見せるわけにはいかなくて、慌てて踵を返す。
「また明日、ね」
後ろからサヨナラの代わりに発されたそれに、明日は会わないと返事したいのに。
それすら言葉にならなくて
お願いだから入ってくるな。
私の中に。
私は私だけで精一杯なのだ。
(いらない感情を増やさせないで)