ドリーム小説
「闇の魔術に対する防衛術、休講・・・?」
目の前に突如現れた一枚の紙。
それは私が読み上げた瞬間、燃え消えて。
何の冗談なのか、嫌がらせか。
そう思い、教室へ向かった。
が、
「あ、本当に休講だ・・・」
あの手紙はまったくもって心当たりはないが、どうやら真実を教えてくれていたらしい。
それから後も、なにか変更事項があるとき、その手紙は私の前に現れた。
誰にも教えてもらえない私に、あの手紙だけが教えてくれた。
誰だろう。
疑問はつのるが、先を知るのは怖くて。
気にしていない、ふり、を続けた。
そんなある日、また、私は呼び出しを受けた。
呼び出したのは薬学教授。
今度は何事かと思いながら、素直に応じる。
ドアをたたけば独りでに開く扉。
入室の許可を受けて一歩足を踏み入れれば、背後で扉は閉められて。
ここで調合を行うことはないのだろう。
壁には一面の本がところ狭しと積み上げられている。
「Ms、。」
低い、耳通りのよい声が、じわり、鼓膜をふるわせた。
あまり呼ばれることのない、私の名前。
それがじわじわと凝り固まった身体に浸透する。
じろり、不機嫌そうな視線が向けられる。
たとえ自寮の生徒だろうと、この人はこんな表情だ。
子供が得意ではないのだろう。
・・・なぜこの人は教師などと言う職業を選択したのだろう。
「ほかの先生方からお前の成績について話を受けている。」
教授の口からでたのは、そんな言葉。
続く言葉も予想できた言葉たち。
曰く、授業に集中していない節が見受けられる。
曰く、あまり成績がそぐわない
曰く、実技もよろしくはない
とか、そういったところ。
「我輩の授業ではそのような節は見受けられないのですがね。」
皮肉下にあげられた口角。
嫌みったらしい口調の割に、言外に理由を問われているのを感じられて。
「・・・わからない単語が、多すぎるんです。」
たとえば闇の魔術に対する防衛術。
予習はしていくのだが、次から次へとなれない単語がもたらされてしまっては、意欲だってそがれていく。
「呪文が、全く反応しないんです」
たとえば変身学
教えられた呪文を口にしたところで、それらが実際に効果をもたらすことは、ない。
先生は首を傾げるけれど、私だって、同じだ。
ずっと、胸の中。
抱き続けていた疑問が、顔を上げて。
「ねえ、先生」
無言で話を聞き続けていた教授が答えるようにこちらを見つめる。
「 わたしは、ほんとうに、まほうつかいなの? 」
あふれた言葉は、口にした私自身を、深く抉る。
見つめられる視線に耐えられなくてそっとうつむく。
教授は何もいってはくれなくて、ただ一つ、そこに深い深いため息だけが落とされた。
ああ、怖い。
胸元に手をやって、ぐ、っとその場所を押さえつける。
帰る家をなくした私には、ここ以外居場所がないのに。
それすら、失うのか。
「この阿呆が」
ぐ、っと頭に衝撃。
「っ、い、いたい、痛いです、教授!」
がしり、捕まれた頭は、握りつぶさんばかりに力を込められて。
いたい、冗談抜きで、ただいたい。
「お前がこの場所にいること自体が、お前が魔法使いだという証だ。」
いたい、から。
ぼたぼたと、あふれる涙は、揺らぐ視界は、痛いから。
決して、安心したからとか、そういうものじゃないんだ。
「言葉が不自由だというのなら、なぜもっと早く言わん。」
そんなこと言われたって。
はじめは人と接するのが怖すぎて。
そうやっているうちに、時間は過ぎていって。
「お前が望めば翻訳薬だって調合してやったというのに。」
あなたは特に、怖い人だったから。
関わることを拒んでいたんだもの。
知らなかったんだもん。
あなたが優しい人だったなんて。
「呪文がきかん理由は・・・おそらくお前の身体に魔力が定着しておらんのだろう。」
本当?
本当に?
それを信じても、いい?
私はここにいても、いいんだよね。
この場所にいても、問題ないんだよね。
気にしないようにしてた暴言も、言葉たちも。
深く深く、心に刺さったそれらは痛みを発していて。
助けて、ってそう叫ぶように静かに痛みを増して。
ぼたぼたあふれる涙をそのままに、その声に、穏やかな音に、浸っていた。
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