ドリーム小説
















まさか、まさかまさか!!!

だって、想像していなかったんだ、こんなことが、おこるなんて、


私が使う言葉が、

私の国の言葉が、


そんなふうに、作用するなんて!!






「きえちゃえ。」





頭の中で、何かがはじけたその瞬間。

私の口から無意識に漏れでたのは日本語。

なれるためにと、必死に使わなかった自分の国の言葉。



ただ、こぼれただけ。

たった一言が。

口から発せられた、それだけなのに。


目の前の、彼女が、一度大きく瞳を見開いて、


ぱちん、と音を立てて、消えた。



「・・・え?」

声を上げたのは、私だったのか、向こうだったのか。

ただその言葉はからりと音を立てて地面に転がった。


「な、に、したの・・・?」

「今、あなた、何を?」


残っていた二人の女の子が、一歩、また一歩と後ずさる。

私との距離をとるように。


そして、叫んだ


「あの子を、どこへやったの!!!?」


私すら持たない答えを、求めた。



彼女の叫びが、あたりに響いて。

近くの教室から生徒が顔を出す。

何事かと皆が様子をうかがう中、かつかつ、と足音が響いて。


「何事かね。」


黒い、真っ黒いローブを翻して、薬学教授は現れる。

眉間に刻まれたしわは平素より深い。

またこの人は十分な睡眠をとらなかったのではないだろうか。

ぼんやりと回らない頭は意味のないことばかりを追いかけて。

彼女たちが教授に告げる言葉をみるだけしかできなかった。





「顔をあげなさい。Ms、。」

気がつけば目の前にはこの学校の一番偉い人。

その前に私は座らされていて。

一度二度、目を瞬かせてあたりをみれば、そこは見慣れない部屋で。

見渡した中、黒い人を見つけて無意識に腰を上げる。

止められないままその人のそばへ行き、そっとそのローブを握る。


「わかんないんです。」

ぐちゃぐちゃの頭の中、それでもこの人だけはちゃんと聞いてくれると信じていて。

「ただ、日本語でしゃべっただけなんです。」

あの生徒がどこへ行ったのか。

「なんと、発言したのかね。」

その言葉に、思わず止まる。

この人に、聞いてほしかったけれど。

この人には、知られたくなかった。


自分の中の、とても、とても汚いところを。


「Ms、


促す声。

この人の顔が、みれない。

でも、求められているのならば、こたえなければ。

この人には嫌われたく、ないのに。


「「きえちゃえ」って、いっちゃったんです。」

言っただけ、だったのに

「そしたら、あの子、きえちゃった。」

顔を両手で覆って、その場に経たり込む。

そう、消えちゃったんだ。

あの子は、私が発した言葉どうり、消えてしまった。


どうして、どうして??

何の呪文でもなかったのに

ただ、言っただけだったのに。


なだめるように、頭に、温もりが乗せられた。

いつぞやの、絞め殺すような勢いではなく。

ただ、落ち着きを取り戻させるように。


「あの生徒は、もう見つかっておる。」


穏やかな声。

校長が告げた事実は少しだけ、本当に少しだけ心臓の痛みを和らげた。

ゆるゆると顔を上げれば教授が目の前にいて。


「・・・本当?」

真実を問えば、一つうなずきが返される。


よかった、よかった。

私が、あの子を殺しちゃわないで、よかった。

ほっとして、また、涙腺がゆるむ。

ゆがんだ視界で、教授が手を伸ばしてくれて。

そっと、目元を拭われる。


まるで、幼い子供にするように。


「Ms

呼ばれた名前。

重たい思考で顔を向ける。

「どうやら君には、英語の呪文は向いていないようじゃのう。」

続けられた校長の言葉。

意味が図れなくてただ、聞く。

「魔法というのは、気持ちが大きいのじゃよ。」

「言葉と魔力が連動して発せられる。」

「君は、英語ではうまく感情を乗せることができなかったのじゃろう。」



混乱する頭では理解が追いつかなくて。

困ったように見上げれば、教授が一度、二度、瞬きをして、答えてくれた。


曰く、私が魔法を使えない理由は、言語にあった、らしい。


「つ、まり・・・?」

これから魔法を使うときは、日本語を使ってみればいい、ということで。

「言ったであろう。お前は魔法使いだと。」

教授の柔らかな表情にまた一つ、涙がこぼれた。



















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