ドリーム小説
泣いて、ないて、ないて。
そんな私を黙って見守ってくれていたのは、薬学教授だった。
最後の年。
大事な友人であったセドリックを失った私は、以前にもまして薬学教授の部屋に入り浸るようになった。
この学校を出てから薬学関係の職に進むことを決めていた私を、教授は黙って受け入れてくれて。
いくつか推薦をだしてくれることにもなって。
「教授」
名前を呼べば視線で先を促される。
もう、今、翻訳の薬は飲んでいない。
このやさしい人は、薬の成分を少しずつ薄くしていって、私の言語能力を少しずつ上げていってくれた。
気が付いたら私の口からは自然に英語が出るようになって
理解もできるようになって。
「私、教授のようになりたいです。」
何を馬鹿なことを、とでもいうようにふん、とそっぽを向かれる。
それでも、いい。
私はこの人のやさしさを知っているから。
「教授は私の目標ですから___私が追い付くまでは、いなくなるなんて許しませんから。」
ぴたり、教授の動きが止まる。
それをいいことに、彼の後ろに立って、その背中に掌を当てる。
「帝王の元にいるときも、私を忘れないでくださいね。」
こてん、と額を背中に預けて、囁くようにつぶやく。
やさしいこの人が背負うものを、すべては知らないけれど。
でも、簡単に命を投げ出してしまいそうなこの人の、小さくても足枷になれるように。
「私を見てくれるまで、あなたを追いかけますからね。」
この世界で初めて私を、妹抜きで受け入れてくれたやさしい人。
今度は私があなたの世界で何かしら、初めての存在になれたら、そんなにうれしいことはないのに。
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