ドリーム小説








これが私の精一杯

















___迷子?おいで、君の寮までつれていってあげる___

その人にとって、それはただの親切。
でも、私にとって、それは初めての予知しなかった、出来事だったの。





わたしには大好きな人がいます。

寮は違うけれど。

学年も違うけれど。

それでも、大好きな人がいるんです。

にぎやかで明るくて、皆から好かれていて人気者。

同じ顔でいたずらをして、成功すれば喜び合って。

レイブンクローの勤勉さはないけれど、それでもその学力はレイブンクロー生じゃ思いつかないところにたどり着く。

あこがれの存在たち。

そして私が好きな人はその片割れ。

お調子者な彼らはそっくりに見えるけれど、それでも少しだけ異なっていて。

彼は片割れよりも少しだけ落ち着いている。

周りをよく見ている彼は、片割れが気がつかないところにだってさりげなく手を伸ばしてサポートする。

そんなすてきな人。






そして、私はそんな彼が___死ぬ夢を見た。






レイブンクローに在籍しながら大した学力しか持たない私の唯一誇れるのは、占い学。

それも予知夢は100中。

毎日みるそれは、いつだって私の一日を予知していて。

いつだって現実は夢をなぞるだけの味気ない日々。

帝王がよみがえるのも、生き残った男の子が成す偉業も、帝王によってもたらされる暗黒の時代も。



この学校が陥る事態も。

全部全部、知っていた。


けれど、私はそれを誰にも伝えなかった。

だって知っていたから。

それを誰に伝えてもその先の未来が変わることはないと

だって知っていたから。

私がそれを人に伝えた瞬間、自分に起こる数々のことを。



だから、私は決して動かなかった。

なのに、

そんななか、みてしまった彼の夢。

みたくなかった、彼の夢。



息たえていく彼。

泣きすがる片割れと家族達。



それは、私に起こるであろう恐怖など凌駕するほどの恐怖。



動いても意味がないとわかっていたのに、それでも動かずに入れなかった。







そして、今。






私は初めて、私の予知夢に、かったんだ。


ぼやける世界。

彼に向けて放たれた呪いは、かすかに私をかすって。

その箇所からじわじわと広がるように、視界をよどませていく。

ぼんやりする世界の中で、ただ一つ確かだったのは、私を支える腕が、彼のものだと言うことと、彼が私の名前を必死に呼んでくれているということ。

ああ、うれしい。

優しいこの人に私の名前を知っていてもらえたことが。

ああ、幸せ。

最後のこのときに、この人に呼んでもらえたということが。


そして、少しだけ残念。


この人の泣き顔なんて希少なものを、この視界じゃみることができないことが。


大好きです、大好きでした。

伝えたいけれど、この人の枷にはなりたくないから。



「ウィーズリー、」

発した声はがらがらで、かわいくなんてなにもないけど。

「私、占いだけは、得意なの」

何か言っているけれど、ああ、やっぱりその声すらもう聞こえない

「あなたは幸せになって、とてもかわいい女の子を授かって___」

ぼたぼと落ちてくる滴は暑いのに、冷たい。

「すてきな世界で生きるのよ」

大好き、大好き。大好きな人。



どうか、どうか幸せに___






※※※







ふわりとほほえむ、小さな子だった。

レイブンクローといえば、勤勉で、人同士の関わりが薄そうな。

そんなイメージだったけれど。

入学したての彼女には、そんな様子全くなくて。

入り組んだ廊下で、なにが起こっているのかわからないとばかりに呆然と立ち尽くしていた東洋の少女。

迷子かの問いにゆるりと首を傾けて。

へにゃりと眉を下げて。

言葉にしないのに、体全体で助けて、と叫んでいた。




ちゃんとした出会いは、その一回だけ。

話をしたのも、手を引いたのも。


それ以後、廊下で見かけたり、大広間で食事をしているのをみたり。

ただ、それくらいの邂逅しかなかったというのに。



どうして


どうして


頭の中に埋め尽くされるのは疑問。

なぜ、こんな僕を助けたのか。

なぜ、身を挺してかばったのか。


「ウィーズリー、」


僕の名前を知っていたこと。

僕を呼んだ声ががらがらで、今にも息耐えそうなくらい弱々しかったこと。

「私、占いだけは、得意なの」

確か西線は僕に向いているのに、その瞳は虚ろで。

僕を映しているようで映していないくって。

「あなたは幸せになって、とてもかわいい女の子を授かって___」

僕の瞳から落ちていく滴にくすぐったそうに目を細めて。

それでも、柔らかくほほえんだ


「すてきな世界で生きるのよ」


あのとき、一度だけの邂逅と同じ、とても優しく、消えていったんだ。





※※※






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