ドリーム小説













蒼の世界で生きる 再開













懐かしいその船。

鯨を模したそれはとてもとても大きくて、いつだって優しく私を迎えてくれていた。


愉しそうに笑みを浮かべて大きな酒瓶を引きずって。

ぎらぎらとした目をそのままに鯨の背へとおりたつ。


その後ろを呆れたように着いていく副船長。

私はフードを深くかぶらされてその背に隠されて。

きっと隠されていなかろうと気づかれることはなかっただろうけれど。


赤髪に副船長に、向けられる殺気はもちろんその後ろにいる自分にも向けられていて。

ぞわり、背が凍る。

それでも半年の無謀な戦闘のたまものか、気を失うなんてことにはならなくて。



___誰も気づかなかったら___



頭によぎる赤髪の言葉。

考えられないことではないそれに、ぞくり、先ほどとは違う恐怖がよぎって。


だって、だって、だれも私をみない。

誰も私を認識してさえくれない。



半年間すがりついてきた意志はもろく今にも壊れそうで。



ぎゅっ、と手を握って前にたつ副船長の背中をみる。

助けて

漏れそうになる言葉をかんで飲み込む。


だれが助けてくれるだろうか。

誰も助けてなんてくれないのに。



ゆっくりと副船長の後ろからずれて赤髪の前をのぞきみる。


そこには半年前から変わらぬ姿の船長がいて。

隊長たちもみんなそろっていて。

そして、彼女もいて。


殺気があふれるこの場所。

そんななかでどうして彼女は無事にたっていられるのか。

それはそばにいる隊長たちがカバーしているからだろう。



守られて、慈しまれて、愛されて



きっと、私の場所なんか、もう、ない




ぐららら

地面がふるえる笑い声。

それは船長のもの。


「何のようだ、赤髪」


響く懐かしい声ぼんやりと耳を澄ませて。

内容などはもう、どうでもよくて。


対峙する赤髪の聞きなれた声に、飲み込まれる。



「いい酒が手にはいったもんでな!飲もう!」


にっかりと笑う。

人のいい笑み。

飲み込まれる、それが彼の本当の姿ではないのかと。



そんなことはないと知っているのに。



「だが、その前に。」


不意に区切られた言葉。

ゆるり、そちらに意識を向ける。

自分のことだろうか。

未だに気づかれないことにもうあきらめしか浮かばない。

そのまま赤髪をみれば愉しそうに「彼女」をつかもうと腕を伸ばしていて。


驚き、小さく体をふるわして逃げようとした彼女。


瞬時、舞う、銀色の、軌跡


「!?」

「っ、どっからでてきやがった!?」



彼女をつかもうとした赤髪に反応して、彼に向けられたいくつもの刃。


それに瞬時に反応してそれらから彼を守るように短剣を構える、私。




あの半年間でたたき込まれた、彼を守るという条件反射。



ぼおっとした思考でもそれは簡単にやってのけてしまって。


「上出来だ。」


愉しそうに上げられた声、それに何の反応も返せぬまま、元々深かったフードをさらに深くかぶり込む。


もう、だめだ



浮かんだのはそんな考え。

ただでさえ突然現れて不信感しか与えないだろうに、あろうことか、彼を、赤髪を彼らの目の前で守った。



それはどう頑張っても、彼らにとっては敵の行動で。



じわりと浮かびそうになる涙をぐっと唇を噛むことで耐えて。






もう、いやだ

もう、全部あきらめてしまおう



鞄の中にいれっぱなしの贈り物を記憶の中から追いやる。



だって、どう頑張っても、もうこの場所には戻れない。



「今、そいつどっから現れたんだ!?」

ざわめく甲板。

赤髪に、副船長に向けられる先ほど以上の殺気。


二人だけの乗船しか許していない、その三人目はなんだ、と。

ほかにもいるんじゃないか、と。





本当はなにをするために、ここにきたのだ、と。


口々に向けられる言葉たち。


あきらめてしまった頭ではもう、なにも考えたくはなくて。




私、ずっと、ここにいたんだよ。

あうために、戻ってきたんだよ。


渡したいものが、あったから。



もう一度、名前を呼んでほしかったから。



















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