ドリーム小説
蒼の世界で生きる 蒼色
イゾウ
そう名乗った男の人についていく。
離れないようにはぐれないように、必死に紫を追いかける。
時折振り返ってはこちらを確認してくれる動作に、じわじわとうれしさを感じながら足を早める。
が、
「っ」
目で追うのに必死で足下の段差に気がつかず盛大に体勢を崩す。
その瞬間目の前の人物は雑踏に紛れてしまって。
あわてて辺りを見回せど、目立つ色は見つからず。
数十分ぶりのひとりぼっちはさらなる恐怖を呼び起こす。
イゾウさん、イゾウさん
覚えたばかりのその名前を阿呆みたいに繰り返す。
それでも人混みは私に目を向けることはなく。
まるで道ばたの小石とばかりに素通りして。
イゾウさん、イゾウさん
助けてたすけて
必死に上げる声。
見てはくれない、気づいてくれない
私はここにいるのですか
「こんなところではいつくばって楽しいかよい?」
他の存在があることでようやっと確立される自己。
それが揺らぎそうになった瞬間、確かに声は私へと向けられて。
イゾウさんの次に私を認識してくれたのは、青い瞳に金色の髪、少しだけ不思議な髪型をした男の人でした。
※※※※
船への積み入れも終わり、皆が皆久しぶりの地上を堪能している。
隊長である自分も例に漏れず、いい酒を探してぶらぶらと道を歩く。
時折であう隊員たちに声をかけたりかけられたりしながら平和というなの休息をむさぼっていた。
そんな折り、ちらり、目の端に感じた違和感。
瞬時に消えたそれは興味を引くほどではなかったが、それでも暇を持て余しつつあった自分には十分で。
再度、そちらへと目を向ける。
すると雑踏に紛れて小さく何かが動いているのに気がついて。
一歩足を踏み出せば、それは何かを必死に叫んでいて。
けれどもその「何か」はまるで雑音のように、言葉として認識はされず。
さらにいうならそこに確かに存在しているはずなのに、希薄すぎる気配。
目を離したら姿を消すかのようで。
その証拠とばかりに道行く人々はそれに目を留めることはない。
叫ぶ声は聞こえているのに意味を理解できぬ言葉たち。
それでも悲壮に響くそれに手を出さずには入れなくて。
「こんなところではいつくばって楽しいかよい?」
向けた言葉、それはその場所にうずくまる少女に適切だとは思わなかったけれど、自分の性格上そんなことばをかけられるわけもなくて。
ゆっくりとあげられた顔は言っちゃなんだが、可もなく不可もなく。
記憶にはなかなか残らないようなそんな造りをしていて。
身につけている衣服はあまり見たことはないもの。
それでも、その瞳に浮かぶ感情は、深く深く、暗く暗く。
それが口に出す言葉は理解できなかったけれど、イゾウ、と、知っている名前を口にしているのだけはわかって。
「イゾウを知ってるのかい?」
聞き返すがどうやら向こうも言葉がわからないようで。
ならば仕方がない。
このまま放っておいても問題はないだろうが、それでも知っている奴の名前を出されたのなら後味がよろしくない。
「とりあえず、つれてってやるよい。」
てをのばして、引いた腕は余りに細く。
さっさと進むために抱き上げた体は、ひどく軽く。
それでも確かに温もりはあって。
おそるおそる、とでもいうように捕まれた自分のシャツがくしゃりと音を立てた。
※※※
あの世界に私がいたということ。
その事実が誰に迷惑をかけた覚えすらないのに
それでもあの世界は私という存在を排除した。
そしてそんな私を受け入れてくれたのか、たまたまだったのか、それは分からないけれど
たどり着いたのはこの世界で。
そしてそんな自分を助けてくれたのは二人の人物。
紫色の着物をまとったとてもとても綺麗な男の人。
追い出された世界で、何も持たない私の手を握ってくれた。
誰も気が付いてくれなかった私に目を向けて、理解のできなかった言葉は私の知っている言葉に。
行き場がないと呟いた私に一緒においでと笑ってくれた。
青い瞳に金色の髪少し変わった髪型が特徴的な海賊らしい人。
眠たげな眼を眇めながらも私を見つけてくれた人。
理解できない言葉であろうに、わかる言葉を聞き取って、私の世界を広げてくれた人。
ぬくもりが、確かに、そこにあった。
そうして、私は人知れず、それこそ船のほとんどの船員に知られないまま、自分でも気が付かないままに「海賊」というものの仲間入りを果たしていた。
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