ドリーム小説
蒼の世界で生きる 無意識
ただ、勝手に体が動いてしまうの。
赤髪に刃が向けられたならば、自分が死んだとしても、守れと。
あの船で、叩き込まれたそれは、この場所に帰ってきても有効で。
驚いた隊長たちの目を、まっすぐ見ることはできずうなだれる。
ごめんなさい、心の中で呟けば、よくやったと赤髪に褒められる。
そんなこと望んでいないというのに
引き寄せられたからだ。
怖いという感情は消えることはなく、
硬直すれば楽しそうに傷口に這うゆび。
助けて、口に出すことができない恐怖は自分の中に蓄積されていく。
「」
そんな私の体を動かしてくれたのは船長さんの声。
父と、よんでもいいと、私を娘だといってくれる人。
尊敬できる人。
けれど、ごめんなさい。
まだ父と呼ぶ勇気はなくて。
温かい掌に頭を撫でられながら、うつむくことしかできなくて。
お父さん、その言葉は喉の奥に張り付いたまま姿を現すことはせず。
「おやじさん!」
けれども、彼女はそんなこと他愛もなくやってのける。
光が満ちるように、広がるぬくもり。
鈴のような声は、冷え冷えとしていた空気を一瞬で溶かして。
ぱたぱたとかわいらしくかけてくる姿。
その手に持っているのはいくつもの料理。
エプロンをつけたその意味は、料理を手伝っていたということ。
自分には出来ないことを、また一つこなしていたその様子に、かなわないなと思う。
こちらに向いていた皆の視線はすべて彼女に。
きっと、今までの私のことなど簡単に記憶から追い出されるのだろう。
「これ、私の故郷の料理なんです!ぜひ食べてください!」
出されたそれは、とてもとても懐かしいものたち。
それを見て隊長たちも口々に賞賛の声。
船長さんも楽しそうに笑う。
赤髪さんたちも興味を持ったのだろう、そちらに目をやって。
ほら、もう、私のことは記憶のかなた。
赤髪の船で副船長に学んだのは言葉。
不自由なく話をすることができるようになった。
読み書きも習ったため今では様々な本を読むことができるようになった。
赤髪に学んだのは戦い方。
基本は副船長に、でも、実際の戦い方は彼に。
気配がないのは武器になると、ただでさえない気配を限界にまでなくすことを体に叩き込まれて。
だから、そこにいるのにいないこと、この半年ですっかり慣れてしまったの。
そっと彼らのそばを離れて、船内に戻る。
食堂に行っても手伝えることなどない。
かといって、何ができるわけでもなくて。
すれ違う人たちはだれも、自分に気が付かない。
慣れきったそれに何を感じるでもなく、ただ足を進める。
疲れた
その感情に突き動かされるまま体は動く。
医務室の扉を抜けた先、ナースたちの寝室。
そこに、私の居場所はあった。
半年前は。
「半年、だもんね。」
使っていた私の場所。
そこは誰かが使用している痕跡があって。
自分がいたときにはなかった化粧道具や小物類が置かれていて。
どこで寝ればいいのだろうか。
どこでも寝れるけれど、できるだけ邪魔にならないところがいい。
とりあえずは確認しなくてはともう一度甲板に向かう。
この場所に戻ってきても良かったのか。
エース隊長は確かに大事な妹だと、家族だといってくれた。
けれども、自分がここにいてもいいのか、胸の中確信が持てずにいる。
だって、自分の痕跡は消されていて、あのころと同じできっと私は気づかれない。
彼らの目の前で敵である赤髪をかばって、隊長たちに刃を向けた。
父と、あの人を呼ぶことなどできていない。
甲板への扉。
その向こうから聞こえてくるにぎやかな声。
それは、とてもとても遠いことのようで。
「なあ、故郷ってどこなんだ?」
開いた扉の先、赤髪の興味は彼女にあった。
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