ドリーム小説
蒼の世界で生きる 贈物
「おかえり」
その言葉はとても暖かくて、同時にその場所にいなかった長い期間を表すようで切なくもあった。
自分の居場所であったはずのナースとの共同の寝室は、自分の後に新たにはいったナースが使うようになって。
かといって女クルー用の部屋など存在しないわけで、新たな部屋を作るために物置の一室を女子クルー用の部屋に作り替えるとのこと。
しかしながらその作業には少々時間がかかるため少しの間医務室にて寝泊まりすることになった。
時間がたつと言うことは確かに変化の現れで、
名にも変わらないなんて、そんな幻想的な願いは叶うはずはなく。
「」
所属は以前と同じ16番隊で、隊長もイゾウ隊長で。
前と同じように16番隊の人たちはをかわいがってくれる。
前よりずっと動くようになった体に驚きながらも、それでも手を貸してくれて。
何か不自由はないかと何かと声をかけてくれて。
とても優しい人たちとともに、この船に乗れることに小さな喜びを感じる。
「ちゃん、甘いもの、好きだったよな?」
食堂では存在を認識されることなくご飯を食べれるかと心配だったけれど、いち早くサッチ隊長が声をかけてくれて。
もっと食べろとばかりに許容量以上のご飯を盛られて。
たまたま前の席に座ったエース隊長のお皿にプレゼントしたが。
「ちゃん」
そして今、彼女と初めてちゃんと向き合って話を交わしている。
たくさんの思い出を。
あの世界は決して空想の世界なんかではないと。
互いの記憶を重ね合わせて照らし併せて。
確かにあの場所は存在していたと。
私たちの記憶の中に存在しているのだと。
「ちゃんと、あの世界は存在してるんだよね」
そう言って、あの世界を思ってただほとほとと涙を流す彼女は本当にきれいでかわいくて、羨ましいと思った。
素直にはなれない私にとってそんな彼女はとても幻想的であって。
(まあ彼女を泣かせているのかと船員にすごい顔で起こられそうになったりしたが。)
「ちゃんにずっと返さなきゃって思ってたの。」
ひとしきり涙を流して赤い目をしながら彼女はふわりと笑って私の手を引いた。
彼女だけのその部屋の中。
かわいいものであふれるその場所に、それはまるで不審物のように鎮座していて。
「あのとき、助けてくれてありがとう。」
思い出すのはあの日のこと。
事故であってもおいていかれたそれは思い出すと鈍く痛みを訴える。
彼女が私に返してくれたのは、あの場所で手に入れた、船長さんに渡すはずのお酒で。
持てばずしりと重さを訴えるそれ。
割れていなかったのかと思うと同時に、渡せないままの贈り物が頭をよぎる。
ありがとう
これからもよろしく
そんな思いを込めて買ったそれは、あのときの私にとって何よりも輝いて見えた。
何も知らない無知だったあのころの私にとっては。
再び手にしたそれはひどく冷たく、色あせて見えて。
「お父さんに渡すために買ったんでしょう?」
ふわり、笑う彼女。
それにうなずけない私に困ったように首を傾げる。
半年越しの贈り物など、いったい何の価値があるのだろうか。
色あせた包み紙は確かにその年月を語っていて。
私がいない、すぎてしまったその時間。
それはどんなにあがこうが返ることはなく。
「込められた思いは、色あせたりしないよ」
ぽつり、部屋に落ちた言葉。
それは彼女が発した言葉で。
「ちゃんの気持ち、受け取らないような、お父さんは小さい男じゃないでしょう?」
言葉は凶器で
言葉は時に恐ろしいもので
でも、
言葉は、背を押してくれる道具にもなって。
「隊長たちにも、ずっと渡したいものがあって・・・。」
そっと彼女を伺えば、ふわり、笑う彼女。
「いってくるね」
いってらっしゃい、その言葉は優しく響いた。
戻る