ドリーム小説
蒼の世界で生きる 彼女
「なあ!もしかしなくてもこの船で始めてのナース以外の女の子じゃねえの?」
はしゃいだ声が扉を挟んだ向こうがわ、食堂の中から聞こえてくるのを聞いて思わずつかんでいたドアノブを放した。
今の声はついこの間隊長として二番隊に就任(・・・?)したエース隊長の声だろう。
思い返してみれば話した記憶はないので私のことを知らなくても仕方がないだろう。
わいわいとにぎわう食堂の中にひょっこり入っていくのはどうにもいたたまれない。
存在感は見事にないのだがさすがにドアが開いたりの音は彼らにも認識できるわけで。
空腹を訴えるおなかをなだめながら時間をずらそうかと踵を返し一歩を踏み出す。
が、それは目の前に立ちふさがった紫に阻まれて。
そっと視線をあげていけば険しい表情を浮かべる自隊の隊長。
ゆるり、伸びてきた手が私の髪をなでて、そしてそのまま目の上で止まる。
なにも見るなと、なにも聞くなと、まるでそういうかのように優しいそれに思わず笑みが漏れた。
「エース。」
食堂の中から小さく聞こえてきた声。
その声は四番隊隊長のもの。
「がいるよい。」
ゆっくりと空気に溶けるのは確かに私の名前で。
その名を呼んでくれたのは、一番隊隊長の声。
脳裏に浮かぶは、きれいなあお
じわり、小さく胸をふるわせたのは歓喜。
存在し得なかったはずの自分が、ここに、確かにいるという証拠。
目を、すべてを閉ざしてしまえと触れられていた手のひらが離れる。
そのままその手はドアノブをつかんで。
開かれた先、食堂に集まる多くの隊員たち。
そしてその中にひっそりと咲き誇るきれいなきれいな華。
それらが一斉に音を立てて開いたこちらに目を向ける。
「サッチ。が昼まだ食べてねえんだ。何か用意してやってくれ。」
「はいよ!。、席座って待ってろ。サッチ隊長お手製のパスタでも作ってやるからな!」
イゾウ隊長の言葉に笑って調理場で作業を始めるサッチ隊長。
見上げれば穏やかに笑う隊長と目があって。
「ああ。そういえば紹介したことなかったな、エース。」
そっと優しく背を押されて一歩足を踏み入れる。
そのまま肩を捕まれて、まるで見せびらかすかのようにずずい、と前に押し出された。
「うちの隊の紅一点。だ。」
目の前でぽかん、と口を開けている二番隊隊長にひとつ頭を下げて。
ふわふわと笑う彼女に同じように笑い返して。
「、後で書庫の整理を手伝ってくれるか?」
一番隊隊長が立ち上がって横に立つ。
その言葉に一つ頷けば、小さく笑みが返されて。
くしゃり、髪を撫でられればその気持ちよさに思わず笑みが漏れた。
「!ご飯できたぞ!」
サッチ隊長に呼ばれるまま足を進めていけばおいしそうなパスタが湯気を立てていて。
この船に、まだ家族として存在することはできてないようだけど、それでも温もりのかけらを感じて、
胸がふわふわ灯りをともす。
この世界にきて、初めて学んだ言葉に心を込めて。
「ありがとう」
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