ドリーム小説
蒼の世界で生きる 家族
確かに存在感はない。
船に乗った当初は丁度出航や予想外の嵐でばたばたしていたため、歓迎会なる宴を開く暇はなく。
結局自分がおいてもらえることになった16番隊の隊員、イゾウ隊長をはじめとした隊長格の数人、船長と同室になったナースのみなさん。
(この間の食堂でのあれはノーカウントとしとく)
それだけのメンバーとしかまともに名前を交わしてはいない。
しかもここには1600人もの船員がいるとのこと。
どう考えても覚えられねえよ。
と、まあ脱線したけれどもなにが言いたいかというと、
この状態も仕方ないよね!!
って自分を励ましたい・・・。
目の前で様々な種の武器を構えながらこちらをにらみつけてくる多くの隊員たちに目をむけながらぼんやりと考えた。
ことの起こりは本日のこと。
昨晩から遠征にでている16番隊。
同じく16番隊所属であれど戦闘面では足手まといにしかなり得ない自分である。
おとなしくお留守番を受け入れた。
しかしながら主に16番隊の雑用を仕事に、イゾウ隊長によって様々なことを教わっていた自分にとって彼らがいないと言うことは、どう時間を過ごすか、それが問題であって。
船長のところにはまだ一人で会いに行けるほどの度胸はなく。
かといって常に多忙な一番隊隊長に自分のことなどで時間をとらせたくはなく。
四番隊の領域であるキッチンに料理の知識を持たない自分がいくのは邪魔以外の何者でもなく。
どうしようかと思いながら船内を歩いていれば、不意に聞こえてきた小さな悲鳴。
何事かとそちらに向かえば地面にうずくまる少女の姿。
それはこの間この船に落ちてきた彼女以外の何者でもなく。
あわてて駆け寄って声をかけるがその子はこちらをみることなくただただうつむいて震えていて。
えええ、どうしろと?
思わず困って何か泣きやませる方法はないかと体中をまさぐる。
たしかどこかに飴を入れていたはずだ。
サッチ隊長にお疲れさまといただいた貴重な糖分だがこのさいしかたがない。
しかしながらそれを探して腰に手をやって、手に触れたどう考えても飴などではない貴金属を取り出した瞬間、
「お前いったい何してんだっ!!?」
なんかものすごく悪いタイミングで声をかけられた。
そのまま気がついたときには手の中にあった貴金属という名の短剣は地面に転がり、代わりに向けられるは複数の刃。
彼女との間には屈強な男たちが割り込んでいた。
そこでようやっと冒頭に戻るわけだが・・・
実際私はこの船に乗って一月はたつ。
なのに乗って三日の彼女はこんなにも知られているのか。
なんかとてつもなく理不尽だ。
ついでにその彼女はなんというか今更気がついたのだろう涙をめいいっぱいためた大きな瞳をしばたたかせて何があったの?
という顔をしている。
くそうかわいいな、とか思って彼女をみていればぐ、っと目の前に突きつけられる刃。
私海賊船に乗ってても、こういうことなれてるわけじゃないんだよ?
じわりとあふれそうになる涙をこらえて刃を持つ人を見上げれば鋭い視線とかちあって。
「いったいどこから乗ってきたんだ?」
「白髭海賊団に一人で殴り込みたぁ、やるじゃねえか。」
「どうする?俺らの家族に手を出したんだ、海に放り込むか?」
交わされる会話に耐えていた涙が、落ちた。
聞き取りはまだ十分じゃない。
でもつなぎあわせれば、意味を理解するのは、たやすくて。
私だって、家族だって、言いたくて。
でも開いた口は声を吐き出すことはなく。
ぎゅう、と握りしめた手、痛い痛いと悲鳴を上げる心。
いつの間にかいなくなった彼女。
数人の隊員がいなくなっていたから彼らが連れていったんだろうと思うが、それはつまり彼女に今からの出来事を見せたくない、そういう意思表示でもあるのだろう。
ぐい、と力一杯手を引かれ、後ろからもすすめと押されて。
地面に落とされていた短刀がただ私を見守るように残されて。
(せっかくイゾウ隊長がこれならお前でももてるだろうとくださったのに。)
ぼとぼとと落ちる涙をそのままに向かわされたのは甲板。
広いそこにはもちろん多くの人が自分の仕事をしていたり、からだを休めていたりするわけで。
突然甲板に現れた幾人もの男たちと泣いている女が現れればそりゃ驚くわけで。
いったい何事かとこちらをみてくるたくさんの目。
それらをぐるりと見渡せど、話したことのある人はおろか、自分を認識してくれる人はいないことがわかって。
うつむけばぼとり、また一つ重たい滴がおちる。
海にでも放り込まれるのだろう。
手を引く人物が進む先は船尾で、それが示すことも簡単にわかってしまって。
手を引く隊員が話つ言葉が何の意味もなさないノイズの用に聞こえる。
どうやら頭はこの現象を理解するのを放棄したようで。
耳は声を意味のないものと排除したようで。
自分がいなくなったらどれくらいの人が気づいてくれるだろうか。
悲しんでほしいなんて、おこがましい。
ただ、自分がいなくなったことに気がついてくれる人が一人でもふたりでもいてくれれば。
そうしたらたぶんちょっとだけでも安心して死ねる気がして。
「 」
何かを言われて、浮遊間。
そのまま広がったのは青。
すべてを飲み込むようなきれいなそれは、私を受け止めるように手を広げて。
あおいあおい、あのせかいとおなじいろのそらとうみ
「!!」
ぎしり、音を立てて浮遊は止まる。
同時に広がった肩から腕にかけての痛み。
あ、絶対これ脱臼とかした。
そんなことを思ってる状態じゃないはずなのに、浮かんだのはそんな考えで。
じわじわと広がる痛み。
ゆっくりと痛む腕をたどって見上げればそこにあったのは橙と緋色。
それはこの間食堂で初めて紹介しあったひとで。
向こうは一度しか私をみていなかったのに、一度しか話していなかったのに、
私を覚えてくれていた。
私を認識してくれた。
なまえをよんでくれた。
ぼとり、また一つ重たい滴がこぼれた。
そのまま、ぼお、と見上げていれば焦ったような顔がこちらに向けられて、
「何してんだ、ばか!!」
たぶん、暴言。
でも、それはどこかとても暖かく感じて。
「」
ぶわり、緋色だけだった世界に蒼が混じって、世界がきれいに彩られた。
きれい、思わず漏らしたその言葉に苦笑する気配。
ゆるり、痛む肩をわかっているのか、負担をかけないように体が支えられて。
海の上、その海よりもずっときれいな蒼が幻みたいにちらついて。
「マルコたいちょう」
泣いたからか、少し渇いたのど。
出した声はかすれていて。
その蒼が私をそっと支えてくれる。
「お前は家族だろい」
そっと頭をなでられて、かけられた言葉。
それはさらに私の決壊を壊す。
ぼとぼととあふれだした滴。
それだけでなく、声も抑えられなくて。
怖かった、怖かった。
誰も助けてくれないんじゃないかって。
私の力はちいさすぎて、私の存在はちっぽけすぎて、
死んでも誰にも気づかれないんじゃないかって。
家族だとそういっても、信じてもらえなかったら、
おまえなんかかぞくじゃない、そんなこと言われてしまえば、わたしはきっと、もうここにはいられなかったから。
ぎゅうぎゅうとその蒼に抱きついて、泣いて泣いて泣いて、泣いた。
気がついたとき目の前には特徴的な髪型。
体の下は柔らかなシーツ。
広がる温もりは目の前の人物によってもたらされていたようで。
泣きつかれてさんざんごねた私はまさかの一番隊隊長様の部屋でご一緒のベッドに横になっていたそうです!!
どうしてこうなった!?
※※※※
この後隊員さんたちとちゃんと仲直りしました。
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