ドリーム小説













蒼の世界で生きる 居残















私がこの船に乗せてもらったときは、ちょうど船が出発するタイミングで。

必要な用品を買いにいく時間もなくて。

さらにいえばしばらく上陸の予定もなくて。

ナースさんたちにサイズの小さくなった服をもらったり、隊員さんたちの廃棄処分(といっても破れて切れなくなったりとかした奴ですが)のものをいただいて自分でなおしたり。

そのほかに必要なものとかもいろんな方に譲ってもらったりしていた。

今現在でも自分のお金というものは残念ながら所有していないので、そのときのものをうまく使って毎日を過ごしている。


彼女が来てすぐに島が見えたのは偶然で、誰が彼女と一緒に島に降りるのか、争奪船が繰り広げられていたり。

そのときに使われるお金はたぶんというか十中八九船長やら隊長やら隊員や等のポケットマネーででるんだろうな、と思いながらその様を眺めていた。



そんなこんなで着いた次の島。

春島とされるここは気温も穏やかで治安も悪くはないようだ。

偶然にも非番に当たっていた16番隊のみんなも思い思いに船を下りていく。

私もそれは例外ではなく。

イゾウ隊長にいつもいろいろがんばっているからといただいたおこづかい(なんだかこの年にもなってこれは少々恥ずかしいな。)を握りしめて島に降り立った。

まあこの島でもどこの島でもそうだが、残念ながら自分の存在というのは薄いわけで。

すれ違う隊員たちが私に声をかけることも、こちらから声をかけることもなく。

ただ一人で楽しくウィンドウショッピングを楽しむ。

のぞく店のぞく店に彼女がいろんな隊員に囲まれている様子が見えるのは気にしない方向でいく。

特にほしいものも、やりたいこともないので今回もいただいたお金は貯金に回そうかと考えながら歩いていればちらり、目のはしに入った装飾屋。

店頭に飾られた蒼い飾りひもに一羽の鳥が頭をよぎる。

どうせ使い道がないのならばお世話になっている方々に何かしてみようか。

ちょいと浮かんだ考えはなんだかすごく楽しいことのように思えて。

ゆるり、通り過ぎようとしていたその店に入る。

マルコ隊長には蒼が似合う。

この間から話すようになったエース隊長には明るい色が。

いつもお世話になっているイゾウ隊長には落ち着いた色。

おいしいご飯を作ってくれるサッチ隊長には明るくて落ち着いた色を。

同室のナースのお姉さんたちには何か甘いものでも買っていこうか。

それから忘れてはいけない船長さんには、何かお酒を探してみよう。


考え出すと楽しくて、時間がたつのも忘れていろんなお店を回り出す。

そうして色とりどりのおみやげを手に店から出た時にはとっぷりと日が暮れていた。


そしてそんな薄暗い世界の中、彼女がなんだかよくわからない人に担がれてつれていかれるのを目撃してしまって。

初めての島で絡まれるとかどんなに災難だろう。

着いていってもできることはないけれど、放っておけるほど白状でもなかったのでとりあえず着いていってみる。

きっと隊長たちもすぐに気がついてくれるだろう。

背負った荷物が少々重いがとりあえず割れないといいなと思いながら足を進めて。

たどりついた倉庫。

そこにぽい、と放り出された彼女。

それはそれは楽しそうに「これから」のことを話す彼らの間を縫って歩いて。

「大丈夫?」

そっと近づいて問えば驚いたようにあがる顔。

微かに赤い頬は殴られたのだろうか。

瞳には涙がたまっていて。

言葉を発そうとした彼女の口元に指を立てて話さないように指示する。

「隊長たちが(たぶん)探してる。だからもう少し我慢。」

そういえばこくりと頷く彼女。

ちゃんと話すのは初めてだなあ、と思いつつ優しく頭をなでてみればふわり、きれいな笑み。

うん。かわいいなあ。


どうやって知らせようか考えなきゃな、と思いながらぐるり、辺りを見回せば、はたり、なぜか誰かと目があった。

あ、気がつかれた。

「誰だお前!!!!」

ですよねえ。

残念ながら戦ったりはできないためとりあえず彼女に割れ物であるお酒を抱えさせて、そのまま怖いものを見せないようにぎゅう、と抱きしめる。
向かってくる刃やら拳やらに痛みを覚悟して、目を閉じた。








鈍い痛みに失った意識。

それを開いたとき目の前には誰の姿も、なかった。





まさかとは思うけどおいてかれた?

そんなばかな。

そんなことを思いながら周りを見回せば戦った後。

彼女がいた場所には縛られていた縄が切られて落ちていて。

どれくらいねていたのだろうか。

わからないそれにひやりとしたものを感じながらじわじわせり上がる痛みをこらえながら立ち上がる。

そうして向かった先


「うそ、だよね・・・」


町中にいた船員の姿はどこにも見えず、モビーデック号のあった場所にはただ、きれいな海が広がるだけだった。










たぶんあの船でも初めてだろうなあ、自分の船においていかれる間抜けとか。

ぼんやりと船があったであろう場所を見つめながら考える。

体は痛いが医者にいくほどのお金は持っていない。

贈り物をしようとか、変なこと考えなければよかった。

そんなこと考えなければ手持ちはもっとあって、少しの間くらい自分一人で生活していけただろうに。

さてさて、どうしよう。

彼らを追いかけようにも、船に乗るお金もない。

どこかで働くにも、とりあえず傷を治さなければどうしようもない。

傷をしてる自分をかくまってくれる人なんて、イゾウ隊長や、マルコ隊長みたいにお人好しな人がそんなごろごろいるわけないし。

小さくため息をはけば、なんかもうすべてがどうでもよくなってしまって。



なんか、泣くのも面倒で。



ちらり、浮かんだ隊長やナースさんたち、船長の姿。

もういいか。

あきらめてしまおうか、生きるのを。

痛いからだはどんどん思考をマイナスへと引き落としていって。

ぐっと膝を抱えてすべてを遮断して。



このまま、誰にも気づかれずに、この世界から消えてしまおうか。




「なあ、どうかしたのか?」




うつらとした意識の中聞こえたその声に伸ばした手は届いただろうか。













※※※※
なんか、おいてかれました。

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