ドリーム小説
蒼の世界で生きる 勧誘
じわり
湧き上がる衝動とは反対に体はピクリとも動かない。
生きたい
そう願ったのは自分だったのか、だれかだったのか。
手を伸ばすことすら許されぬ強張りの中、ただ、あの紅が、蒼色が、白が、紫が、存在していることだけを、望んだんだ。
「起きたか。」
定まらぬ視線の中、聞こえてきたのは聞きなれぬ声。
ゆるりとそちらに目をやれば何の色をも持たない瞳がこちらに向けられていて。
その目の下に存在する隈が目の前の男をさらに人相の悪いものに仕立て上げていて。
「ここ、」
出した声はかすれていて、喉が、腹が、焼けるように痛んだ。
小さくけほりと喉を枯らせば視界を閉ざすように掌があてられた。
「無理に話すな。至近距離で熱風を吸い込んだうえ腹に穴が開きかかったんだ。ほかのやつらから見たら軽傷とはいえ、重病人であることに変わりはない。」
けほり、再び喉を鳴らせば男は目元から手を放し、まるでなだめるかのように喉を撫でた。
「ここは俺の船だ。今は潜水して敵から身を潜めている。・・・安心しろ。麦藁屋も火拳屋も七武海も無事だ。」
じっと見ていればようやっとほかのみんなの状態を説明してくれて。
それに思わずほっと息をつく。
「麦藁屋と七武海はかなりの重傷で今は寝ている。火拳屋はすでに起きて食堂だ。」
ゆるゆると撫でられる喉。
急所であるはずのそこは、なぜか撫でられると気持ちが良くて。
そっと目を閉じてその感触を甘んじて受け入れていればくつり、上から笑う声。
ゆるりと再び目を開けば先ほどよりもどこか柔らかな瞳をした男がそこにいて。
「お前は猫か。」
小さくこぼされたそれに思わず目を瞬かせれば再び、くつりと笑われて。
「にゃあ。」
ならばと猫の真似をして見せればその目はさらに細められて。
「その存在感のなさといい、意味の分からない言動といい、・・・面白いな、お前。」
先ほどまでのやさしげな瞳はどこに行ったのか。
気が付けばその瞳に宿るのは剣呑な色。
にやりとゆがめられた口元は、それはそれは愉しそうで。
喉を撫でていた手が、そのまま鎖骨へと下がっていく。
「お前、俺の女になってみるか?」
ぐいと近づかれ指一本を残した至近距離で、男は愉しげに囁いた。
その瞬間
「!」
開かれた扉の向こう、紅の炎を身にまとい、隊長はそこにいた。
「トラファルガー。俺の妹と弟を助けてくれたことは感謝してる。」
それはそれは綺麗な笑顔で隊長はお礼の言葉を述べた。
その元気そうな様子に思わずほっと息をつく。
ふわり、を見て確かに隊長も笑った。
が、
「大事な妹に手を出すってんなら、別だ。」
ずしりと重たくなる空気。
自分に向けられてはいないのに、それでも空気は吸いにくく、思わずけほりと席をする。
そうすれば再びなだめるように首を這う手。
そしてさらに重くなる空気。
ちょっとやめてくれ、悪循環にもほどがある。
「きゃぷてーん!」
突如そこに響くほんわりとした声。
見事に空気を割ってくれたその声の主はひょこりと扉から顔を出した。
・・・白熊だ。
・・・え?今しゃべった?
思わず呆然と白熊を見れば目があった。
すると、
「あ、起きたんだね。よかった元気そうで!ぼくはね、ベポ!お前は?」
矢付きばやの質問に答えられるはずもなく。
一つけほりと喉を鳴らせば私の上にいた男がゆらり、体を起こした。
「ベポ。病人にあまりしゃべらせるな。」
「あいあーい!」
「で、何があった。」
「あ!あのね、七武海が___」
嵐のように現れた白熊によって、男は簡単に部屋を出て行って。
残された私と隊長はあまりの自由さに何も言葉を発することができなかった。
「ええと、とりあえず、、無事だな?」
頭に手をやりながら困ったように問うてきた隊長にふにゃり、笑うことで答えた。
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