ドリーム小説







蒼の世界で生きる 家族











治療を受けてから数日。


麦藁たちと違ってまだ程度は浅い傷。

よって先に動くことを許されたため麦藁たちとは別に本日隊長と共に船を出ることになった。


ハートの船員の一人である船大工がエース隊長のストライカーもどきを作り出してくれたためそれで移動だ。


私は乗れるスペースはあまりなかったためエース隊長に抱えられた状態だが。



、そこが嫌になったらいつでも来い。」


よくわからないがなんだかきにいられたらしく、この数日間毎日のように勧誘をされた。


「大事な妹をだれがやるか。」


そのたびに隊長がやってきては邪魔をするものだからその誘いはことごとく蹴られたが。

最後にベポに抱き着いてぎゅうぎゅうと抱きしめあって、そうして笑顔で船を飛び出した。







向かうのは、家族の元。











!」



私の姿を見て一番に名前を呼んでくれたのはイゾウ隊長。


ふわりと香る和の匂いに帰ってきたのだと安心する。




「頑張ったよい。」


やさしく頭を撫でてくれたのはマルコ隊長。

よくやったとめったにない褒める言葉は何よりもうれしい。



そして



べりりと音を立てて二人からはがされて何事かと見上げればまぶしい笑顔がそこにあった。



「おかえり、。」


ぎゅうぎゅうと後ろから抱きしめられて。


けれども顔は見たいからと顎にてをかけられて。


顔中にお帰りの言葉と唇が降ってくる。


突然のそれらに抵抗はできず、理解もできず、思わず視線をうろうろさせればちらり、視界の端のマルコ隊長が震えているのが目に入った。




「サッチ・・・てめえついに見境もなく・・・!」



意味は分からないけれどどことなく怒っているのだけは分かる。


「サッチ!ずりい!俺もやりたい!」


エース隊長が手を挙げて叫ぶ。

それらを無視してぎゅうぎゅうと抱きしめられる。



いや、とかはなくて。


あったかくて、気持ち良くて、とてもほっとできて。


ぺしぺしとその腕を叩けば少しだけ広がる距離。


そのままくるりと後ろに向き直ってぎゅう、と今度は自分から抱きつく。


正面同士で抱きしめあう態勢はぴったりとパズルのピースがはまるかのように温かい。





「あーもー、大好きだ。」



小さく耳元で呟かれた言葉。


そこには痛みも、苦しみも、悲しみも、全部全部込められていて。




最後まで守りきれなかったことへの謝罪。

最後まで共にあれなかったことへの後悔。

生かしてくれことへの感謝

生きていてくれたことへの喜び。




そのサッチ隊長の一言が、すべてを物語っていて。




ぎゅう、ともう一度力を入れて抱き着く。





「私も、大好きです。」




ありがとう、生きていてくれて。

ありがとう、たくさん助けてくれて。

ありがとう、私を信じてくれて。

ありがとう、一緒にいてくれて。



たくさんの気持ちを、この一言に乗せて伝えるの。








この大好きが、どんな意味のものなのか、それはまだわからないけれど、それでもたくさん伝えたい感情があるの。










ぎゅうぎゅうと抱き着いていればすぱん、と響いたいい音。

何事かと顔を上げればサッチ隊長が頭を押さえていて。


「そろそろ離れろい。」


怒りを纏ったマルコ隊長。


その手には手紙のようなものがあって。


。赤髪から手紙だよい。」



そして渡される一通の手紙。






_次に会ったときは、連れて帰る_




それだけ書かれた簡素な手紙。


それでも今はここにいることを許されているとそう感じて。



脳裏に浮かべる赤い色。

私を拾って育ててくれたひどくねじまがった意思を持った、やさしい人。





「さーて。ナースや梨湖たちを迎えに行くよい。」







マルコ隊長の言葉を皮切りに、皆が皆動き出す。






目指すのは一つなぎの財宝。




大事な父親は皆の胸の中に。




ここから始まる、新しい航海。



ここから始める、新しい冒険。










失ったものはとても多いけれど、


それでも守れたものも確かに存在していて。



この手から落ちていったものは数え切れないほどあるけれど


この手は確かに何かをつかんだ。







生きていてくれてありがとう




死なないでいてくれてありがとう




一緒に歩むことを許してくれてありがとう




私がここにいることを、認めてくれてありがとう





名前を呼んでくれて、ありがとう

















未来を、変えたいと、その想いを、否定しないでくれてありがとう。



















もっと他に方法はあったのかもしれない。



船長さんも助けて、誰もけがをしない、そんな方法が。



傷つくことはなく、誰にひとりかけることがない、そんな方法が。





それでも、弱くて小さな私ができることは限られていて。


それでも、ちっぽけで力のない私ができることはとても小さくて。








何もできなかった私の背を押してくれてありがとう。












これから先起こること、何一つわからないそれは、不安ではあるけれど、それでも、それは私が選んだ道だから。



皆と歩む、世界だから。










悔いのないように、生きて生きて、一緒に生きて、そうして笑って、世界を終わらせたい。




















私を見つけてくれてありがとう、イゾウ隊長


私を呼んでくれてありがとう、マルコ隊長


私を娘だと呼んでくれてありがとう、親父さん



私を拾ってくれてありがとう、お頭


私にいろんなことを教えてくれてありがとう、副船長さん




私を助けてくれてありがとう、トラファルガーさん

私に希望をくれてありがとう、麦わら帽子さん




それから、生きててくれてありがとう、エース隊長


私を大好きだといってくれてありがとう、サッチ隊長











大好きだとか、そんな言葉じゃ足りないくらいに大好きで。



大切だと、そんな言葉じゃ言い切れないくらいに大切で。





足手まといにしかならないけれど、


それでも、これから先も一緒にいたい







親父さんが目指したものを、今度は私たちが目指すの。











ずっと、一緒に、生きていくの。





この蒼い世界で。


































※※※
お付き合いくださりありがとうございました。
エースとサッチが少しだけでも笑う世界を創造したい。
ただそれだけで原作沿い、というお話を書かせていただきました。
賛否両論たくさんだとは思います。
それでも自分なりに、原作を壊し切ることなくお話を紡ぐことに挑戦してみました。
白髭を救済するか最後まですごく悩んだのですが、どうしても自分の中で白髭さんはこの場所で家族を背に立ち続ける姿しか思い浮かばず・・・。
というわけでサッチとエースだけの救済になってしまいました・・・大変申し訳ないです。

傍観夢、もどきにもほどがある。
途中から彼女ほとんど出ないしね・・・。

それでも少しでも楽しんでいただけたならばうれしいです。
色んなお話がある中の一つだとそう思っていただければ幸いです。
サッチより、と言いながら落ちることも恋愛になることもなく、なんか最後のほうハートさんやら桃鳥さんやら参加してましたが気のせいです。
ちょっと出来心が働いただけです。はい。

残念ながらこの物語は続きません。
ここで一つの区切りとなります。

ここまで応援してくださって本当にありがとうございました。





2013/2 煌那蔵



















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