ドリーム小説
できそこないヒロイン
知っていたよ。
私は、ヒロインなんかじゃないって。
ヒロインになんか、なれないって。
お姫様でもなければ、特別な力を持つわけでもない。
なにも、特記したものをもたない、ただの女の子。
平凡で、普通で、そんな言葉に形容される私。
でも、思ってしまったの。
突然知らない世界に放り出されて
そのまま知らない人たちに捕まって
意味が分からないまま売り買いされて
きつい労働と心身共に襲いくる恐怖に、抵抗できなかったときに
助けてくれた蒼を見た瞬間。
私がここにいる理由は、この人に会うためだったのだと、錯覚した。
この苦しい生活も、この意味の分からない世界も、私の世界と切り離されたそのわけも、全部このためだったのだと
この人は私にとっての王子様で
私がこの人にとってのお姫様なんだ、って
信じてしまったの
海賊だと名乗ったその人は、私と一緒に捕らわれていたたくさんの人たちを解放してくれて、とある島へとつれていってくれた。
彼の船長さんが所有する島だ、と。
帰る場所がないならばここで暮らせばいい、と。
優しい笑顔に、言葉に解される
この世界で初めてふれた温もりに優しさに、ただただ愛しさが募る。
そのまま島をでていこうとした彼に、すがりついたのは、私。
一緒につれていって、と。
独りにしないで、と。
渋る顔を見せながらも私の粘りにしぶしぶであれどその人はうなずいてくれて。
これから私の物語が始まるって、信じて疑わなかったの。
鯨の形をした大きな船。
私なんか本当にちっぽけに見えるそれ。
そこに乗った瞬間いろんなところから向けられる疑惑と不振の色。
思わず恐れて蒼の人の腕をつかもうとすれば、するり、距離をとられた。
思わずそちらをみれば、蒼の人はこちらをみてはいなくて。
「マルコ!!」
鈴が鳴るような、と形容するにふさわしい声。
ふわり、海の香りをまとったきれいな女性が、蒼の人へと飛びついて。
「おかえりなさい!」
とびきりの笑顔。
それに答える蒼い人はとてもとても優しい表情をしていて。
マルコ
それが、この人の名前。
本人から聞きたかった、その名前。
知ってた、しってたよ!
私じゃお姫様になんか、なれないって!!
それでも、望んじゃったんだ!
この人の瞳が私を写して
この人の声が私を呼んで
この人の腕が私を包んで
この人の笑顔が私に向けられることを
望んでしまったの!
この人に愛されるお姫様になることを。
浅はかな思いでこの人についてきて、そうして勝手に絶望した。
きっと、あの島で大人しくしていれば、こんな思いを持つこともなくて、静かに想うだけですんだだろうに。
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