ドリーム小説
あおいとりがわらう 12
「すまねえが、俺はこいつに用事があるんでね。失礼するよ。」
隠された視界のまま、目の前の彼女が立ち去る気配。
後ろのイゾウさんが、柔らかく頭をなでてくれて、ぼとり、涙が落ちる気配を感じた。
「泣きなさんな。かわいい顔が台無しになるぞ?」
「かわいく、なんか、ない。」
ぎゅう、とイゾウさんの手の上から自分の手を押し当てる。
頭の中にぐるぐると回る、さっきの女の人
とてもきれいで、かわいくて、自分なんかじゃ及ばない人
ほとんど初対面にも近い私だというのに、とても優しくいろんな話をしてくれて。
私の名前を呼んでくれて。
だというのに
心の中はぐちゃぐちゃで、醜くて。
悔しくて悲しくて、どうしようもなくて
「すごく、醜い。あの人に、嫉妬して、あの人が、うらやましい。」
「どう、うらやましいんだ?」
穏やかなイゾウさんの言葉が、私の耳朶を打つ。
それは簡単に私の心を解して。
「私の知らないマルコさんをたくさん知っていて」
みたことのない顔で笑うマルコさん。
「私じゃまだ立てない場所で、マルコさんと同じものをみて」
夜遅くまでパソコンと向き合い作業をする姿。
手伝えることなんて、一つもなくて。
真剣に告げた言葉なのに、くつり、後ろで笑う声が聞こえてきて、思わず手を払い振り向く。
そうすればすごく、優しい瞳を、イゾウさんは浮かべていて。
「本当に、おまえさんはいい女だな。」
「そんなんじゃ、ないです。」
いいおんななんかじゃ、ない
「マルコなんかには、もったいないくらいだ。」
そんなこと、ない
「おまえは、十分マルコの役に立っている。何もできていないなんて、思わなくて言い。」
ぽん、とうつむいた頭に手が、乗せられて。
柔らかく頭をなでられて。
「俺が知っているマルコは、おまえが知っているマルコよりも少ないかもしれない、そう思えるくらいには、お前はあいつの顔を引き出せている。」
子供をあやすかのように行われる行為。
「お前さんに会うまで、俺はあんなマルコ知らなかったからな。」
紡がれる心地の良い音程。
イゾウさんの言葉はとても柔らかくて、すさんだ胸にじわり、しみこむ。
「。安心して胸を張れ。」
最後に一度大きくなでられて、そうして温もりは離れていく。
「おまえは、マルコのことが、好き、なんだろう?」
イゾウさんの穏やかな声、そして笑顔に、言葉が、あふれた。
「うん。・・・だいすき、なんです。」
あの眠たそうな蒼い瞳が、美味しいものを食べたときに大きく見開かれるところとか。
分厚い唇が私の名前を紡ぐところとか
特徴的な柔らかな髪とか
よく変わる優しい表情とか
私に触れる、大きな、手とか。
ぜんぶぜんぶ、
あのひとをかたちづくる
すべてのものが
だいすき、なの
あの人が私をみて、私を呼んでくれて、私に触れてくれる度、気持ちはどんどん大きくなるの。
「その気持ちを、想いを、マルコに伝えればいい。」
いいの、かな。
私なんかが、マルコさんのことを想っても。
かまわないの、かな。
私なんかが、マルコさんの横に立つことを願っても。
ゆるされるの、かな
あの人と同じ未来をみたいと願うことが
戻る