ドリーム小説
あおいとりがわらう 2
私と、彼、マルコさんの出会いはとんでもないものであった。
大学生になり親元を離れ初めての一人暮らし。
昨今危ない事件が続く中、値段に引かれオートロックも何もないマンションへと入居。
やすい割にまあまあな設備の整ったその部屋は私にとってお気に入りのもので。
部屋は一つしかないけれど、私一人が住むぶんにはなんら問題のないものだ。
ふかふかのベッドはどうしても一人暮らしをするに当たってはずせないもので、ちょっと値段はしたけれど奮発して買ってしまった。
おかげさまで毎日眠るのが楽しみで仕方がない。
そうして、一人暮らしを初めて一月。
それはそれは何ら問題ない一人暮らしを過ごしていた。
それはとある夜中のこと。
夕食後鍵を閉め忘れたことに気がつき、あわてて向かった玄関。
鍵に手をかけた瞬間、かちゃり、という音を立てて突然目の前のドアは開かれて。
何事が起こったのか、理解できないそのままの私の目の前で、ゆっくりと扉は開かれていく。
そしてそこから姿を現したのはパイナップルのような髪型を携えた一人の男だった。
目つきは据わっている。
発せられる空気は大変重く、こちらの恐怖を引き立てる。
挟んでもいいからとりあえず閉めなければと引っ張った扉は、まるで悪徳商法のような足を扉に引っかけるという行為で無惨に散り。
あ、私、もしかしなくても、やばいんじゃない?これ。
パニックを起こす頭ではなんか余裕そうな言葉を考えていても、実際これは非常にやばいことで。
なんで鍵を閉め忘れたんだ私。
数時間前の自分に思いを馳せる。
「わ、」
ぐっ、と目の前の男によって開かれた扉。
あっけなく私の力は無きものにされて。
体勢を崩した私をぐい、と引っ張りあげ、そのまままるで自分の家のようにずんずんと中へと入っていく。
あ、まじでやばいかも
よぎる考え、しかしながらもうそれは遅すぎたようで、気がついたときには自分の背中にはお気に入りのベッドの感触。
目の前にはパイナップル。
お気に入りのベッドだったのに、はじめてだ、こんなにもこのベッドが安らぎをくれないなんて。
ぐっ、と近づいた距離。
まっすぐな瞳。
射ぬくようなそれに、思わず目を閉じる。
と、
ふわり、暖かさと共に鼻にくるアルコールのにおい。
恐怖していた感触はこず、おそるおそる瞳をあけれ、ば、
目の前のパイナップルは私を抱きしめたまま小さく寝息をたてていて。
あ、れ?
もしかして、ねた?
この人私の部屋で私のベッドで私を抱き枕にして、もしかしなくても、ねてる?
ぶわり、今までの緊張我からだから一気に抜けて、大きくため息をはく。
お前は何者だと、いったいなにがしたかったんだと、たたいて起こして、しばきまくりたい感覚はあれども、なんだか子供のようにすやすやと寝息をたてるパイナップルを起こす気にもなれなくて。
明日は一限からの日だ。
この意味のわからない男にかまってばかりはいられない。
そして、久しぶりに自分の部屋に誰かがいるという感覚に、少しだけほだされて。
ゆるり、閉じていく瞼に逆らわずゆっくりと眠りの世界へととびたった。
じわり、肌に感じる温もり。
少し肌寒く感じる朝にはそれがとても暖かくて。
すり、とそれにすり寄る。
あまり親しみの無いはずのそのにおい。
それでも鼻腔いっぱいに吸い込めば、緩やかに自分の中に落ちていく。
「っよい??!」
「ん・・・」
暖かな温もりが上げた声に、少しうるさいと感じ、よりいっそうそれにすがりつく。
うるさいそれから逃げるように温もりに耳を押しつけて。
トクトク、小さく響く音は、よりいっそう眠りを深いものへと招いていって・・・?
・・・・・・・・・音がしている・・・?
抱き枕だと思ってすがりついていたそれだけれども、どう考えてもこの温もりは無機物のものではなく。
さらに言えば音が鳴るようなハイテク機能を持ったものを所持してはいない。
それからこの部屋には私しかいないはずで、私以外の声が聞こえるのはおかしいはず、で・・・?
回転の遅い朝の頭で思い浮かべる昨日のこと。
ゆっくりと、しかしながら確実に覚醒に近づく頭。
ゆるり、開けた瞳の先、そこには見慣れない肌色があって。
その色をたどって視線を上へと上げていけば、そこにあったのは、パイナップル。
ああ、そういえば昨日の夜にパイナップルに家に押し入られたっけ。
ぼおっとそんなことを考えながら、ばちり、目があったその人にふにゃり笑う。
「おはようございます。」
「、お、はよい・・・?」
挨拶に挨拶で返してくれたことに満足して、さあ、もう少し惰眠を貪ろうかと、瞳を閉じ、
「ちょ、ちょっとまつよい!!」
れなかった。
「ん・・・なんですか・・・私朝あんまり強くないんです・・・ねかせて、ください。」
「こ、ここはどこだよい!?何で俺はここにいるんだよい!?」
・・・ふむ、どうやら目の前のパイナップルさんは昨日の夜のことをなにも覚えていないらしい。
独特の語尾が気にはなるけれど、なんだか昨日とのギャップがありすぎて笑える。
「・・・ひどい、昨日の熱い夜のこと、なにも覚えていないなんてっ!」
あまりにも顔色が悪いパイナップルがおもしろくて、眠たさで潤んだ瞳でそんな言葉を投げかけてみる、と。
さああ、と音を立てるようにさらに悪くなるパイナップルの顔色。
「お、俺は、なんてことを・・・!」
え、なに、この人、おもしろい。
やばいくらいに慌てふためきだしたその人。
しかしながらそろそろからかうのもやめにしないと、この後の授業に差し障るかも知れない。
ちらり、目に入れた時計の時間にゆっくりとベッドから体を起こす。
「と、いうのは冗談でして。」
パイナップルが若干涙目になりながらこちらを見てくる。
「冗談、よい?」
こてり、首が傾げられる。
・・・なんか、かわいいおっさんだなあ。
「昨日の夜、突然私の部屋に押し入って私の部屋で私のお気に入りのベッドで、なぜか私を抱き枕にしてお眠りになられただけですよ?」
にっこり、笑って告げた言葉に、そのパイナップルは愕然とベッドの上に崩れ落ちた。
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