ドリーム小説
あおいとりがわらう 3
「悪かったよい・・・」
しょんぼりとうなだれたままのパイナップル、基彼はマルコさんと言うらしい。
年は私よりももちろん上で、とある会社での部長をしているとのこと。
昨日のことは全く記憶にはなく、なぜこの部屋に押し入ったのかと問えば、部屋を間違えた、と帰ってきた。
どうやら彼は隣の部屋だったらしい。
引っ越してからこの方、一度も会わなかったのは朝早く出勤後、遅くに帰宅していたのが原因なようで。
そういえば引っ越しの挨拶の時に持っていったお饅頭はこの人がいつも不在だったため玄関にかけておいたのだが。
食べたのかと問えば先ほどまでのしょぼくれようはどこにいったのか、ぱあ、と彼は表情を明るくした。
「お饅頭、おいしかったよい。」
ふにゃり、目元をゆるませて、うれしそうにマルコさんは笑う。
どうやら甘いものが大好きらしい。
かわいいおっさんだ。
どうせなら、ということで朝ご飯をだしてみれば、その細いからだのどこにはいっていくのか、もっもっ、と多くの量を消化していく。
「うまいよい・・・。」
それはそれはおいしそうに食べてくれるのであればこちらとしてもうれしい限りだ。
「久しぶりにこんなに美味しいもんを食べた気分だ。」
食べ終わり、礼儀正しく手を合わせた後彼は感心したように言葉を紡いだ。
いやいや、大げさすぎるだろ。
ただのお味噌汁と五目ご飯、焼き魚に昨日の残りの佃煮だというのに。
「そんなたいしたもんじゃないですよ。」
「そんなことない!おいしかったよい!」
謙遜でもなく、本音をはなせば立ち上がりふるふると首を横に振るマルコさん。
「忙しくてあまり食べれていないんですか?」
たぶん時間がないんだろうなあ、と思い問えば、あーとかうーとか奇声を上げて。
「・・・家事は得意じゃないんだよい」
どことなく言いずらそうに言葉を紡ぐマルコさんは、なんか、こう、ほとんど存在しないであろう私の母性本能とやらをじわり、くすぐって。
「・・・よければまた食べにきてください。」
思わず口から言葉が漏れる。
瞬間、がばり、彼の顔があがり、目がきらきらしているのが見えた。
「で、でも、悪いよい、」
表情とは裏腹に口からはそんな言葉がもたらされて。
「一人で食べるより、ずっと美味しいですから。」
私の言葉にマルコさんは、それはそれはうれしそうに瞳を瞬かせた。
衝撃的出会いより、早半年。
あれ以降彼が家に帰ってくる日は毎回晩御飯を作るようになった。
食費はマルコさんが出してくれるようになり、光熱費もかかるからと場所もマルコさんの部屋だ。
ちなみにマルコさんの部屋に初めて入ったときの衝撃はもう、はんぱなかった。
樹海というのを初めて目の当たりにした気分だった。
それ以後彼の家の家事も含めて様々なことを行っている。
彼女でもないのに渡された合い鍵。
いいのか?と思いながらもあのしまりのない顔で作ったご飯を食べられてしまえば、まあ、いいか、と飼い慣らされてしまって。
そう、私の知っているマルコさんというのは、仕事ではないとき、プライベートの姿。
だからこそ、驚いたんだ。
普段の彼とは違う、その姿に。
その横に立つ、女の人のように私は、綺麗ではなくて。
仕事のことだってわからない。
私ができるのは、家事しかなくて。
そんな笑い方が、できる人だったなんて、知らなかった
私が知っているマルコさんは、甘党でだらしがなくて、そうじができなくて、料理をすれば未知の生物を生み出して、私が言ったことに一喜一憂して、ふにゃり、笑う人で。
「」
呼ばれる私の名前。
関係はただのお隣さん。
下の名前ではなく、名字で呼ばれることが少し悲しいと、そう思ってしまった瞬間、気づいてしまった。
ああ、私は一回り以上も違うこの人に、恋をしてしまったと。
戻る