ドリーム小説


あおいとりがわらう 5

















マルコさんは大人で。

私は子供で。


こんな感情を持っちゃダメだって、わかってる。


それでも一度気づいてしまった好き、という気持ちはなかなか仕舞い込めるものではなくて。





「甘えさせてくれないかい?」





耳に残る昨日の言葉。

私に、甘えたいと、縋り付いてきたその姿。

愛しい、ふわり、浮かぶ感情は慣れないもの過ぎて、緊張する。


あの人とマルコさんと、どういう関係なんだろうか。

私は、この部屋に入ってもいいのだろうか。


そんなことを考えていた私を見抜くみたいに。


彼はなにかあったのか、ではなく、なにがあった、と問うた。




私のすべてを見透かすみたいに。





真剣な瞳に、どくり、大きな音を立てた心臓。


一晩たった今でもその感覚は消えなくて。



、出かけないかい?」



昨日のマルコさんを思い出して一人うろたえる私に対して彼は何一つうろたえることなく、そんな言葉を口にした。


「・・・え?」


思わず止まる私にふわり、彼は笑う。


「いつもうまいもん、食わせてもらってるからねい。たまには贅沢するのもいいだろい?」










乗せられた助手席。

いつもより近くに感じるマルコさん。

どきどきする心臓をなだめながら窓の外を眺める。


デート、みたいだ。


思った言葉は絶対に口にしてはいけない言葉。

ぎゅう、と握った掌の中に仕舞い込んだ。



「時間はあるからねい。どこか行きたいところはあるかい?」


ゆるり、いつもとおなじ、口調で、いつもよりも穏やかな声で、マルコさんは言葉を紡ぐ。

じわり、耳に響く心地よさに、緊張していた体がうそみたいにほぐされて。


「私はとくにはないです。マルコさんこそ、久しぶりのお休みなんでしょう?どこか行かなくちゃいけないところとかはないんですか?」


久しぶりの休み。

その通りに彼が一日休みをもらえたのは一月ぶりくらいではないだろうか。


「・・・なら、俺に付き合ってもらおうかねい。」


少し考えるようなそぶりを見せた後、ちらり、と眠たげな、やさしげな瞳がこちらに向けられた。







「___めっずらしいことも、あったもんだな。」



マルコさんに連れて行かれたのは高そうな服屋さん。

ブティック、とかいうのだろうか。

学生である私にはどう見ても無縁なもので。


車を止めてさりげなく私の手をとって先導してくれる姿は、こう・・・おうじさま、みたいで。

そのまま手を引かれて入った店の中、黒髪長髪和服美形男子がお出迎え。

私とマルコさんを見て、驚いたように口に含ませていた煙管を落とす。


「お前さん、本当にマルコかい?」

確かめるように歩み寄り、私とマルコさんの前後左右をくるくると回る。



「うっせえよい、イゾウ。」


イゾウ、そう呼ばれた人物はくつり、喉で笑いをかみ殺す。

「ま、何があったのか今度じっくり教えてもらうとして___初めまして、お嬢さん。俺はイゾウ。名前を聞いても?」

ゆるり、ひどく鮮麗された動作で彼、イゾウさんは私の前で腰を折る。


「は、じめまして。、といいます。」


おとこのひとなのに、なんだこのいろけ



そう思うほどに、目の前のイゾウさんは艶やかに笑う。


「かわいいお嬢さんじゃねえか。なあ。マルコ。」


お嬢さん

その呼ばれ方はどこか不自然で、まるで私という存在をその一つの中に押し込めるように感じてしまう。


イゾウさんの言葉にうるさい、と言葉を返すマルコさん。


二人が並ぶさまはひどく様になっていて。



「綺麗、だなあ・・・。」



思わず口から洩れたその言葉にイゾウさんがきょとりと表情を止める。

マルコさんも驚いたように口を開けて。


そうしてどことなく不機嫌そうにマルコさんは視線をさまよわせた。


。服、選んでやるよい。何が好きだ?何が欲しい?」


イゾウさんとの間に入り込むようにマルコさんが私の視界に入ってくる。

そのまま告げられた言葉に思わず絶句。


え、もしかして、ここ私の服見ようと思ってきてくれたの?


だがしかしながら、どう見てもこの店のものは安そうではなく。


思わず固まった私にふわり、マルコさんが笑む。




「俺が選んだ服を、俺がお前に買って、俺の前でお前にきてほしいんだよい」



とろけるように、甘い甘い微笑と共に言葉は紡がれる。



どくん、また大きく心臓が音を立てた。



ねえ、マルコさん、それってどういうこと?

もしかして、期待、してもいいの??



「いくつか選ぶからも何か選んで来い。」



そっと背中を押されて足を進ませる。

混乱する頭の中、それでも確かに喜びが、期待があって。



あの人が、私のためにって、そう選んでくれるのだったらなんでも、うれしいのに。




言葉にしないけれど、それは本心。





視界の端に入った蒼い色。

彼の色にひどくよく似た黄色と蒼が光り輝く髪留め。

それは華奢で、繊細な作りがほどこされているもので。

それでも、存在感をあまりださず、柔らかな世界を生み出していて




マルコさん、みたい。



そっと、それに手を伸ばす。

きらきらと、光に透かせばやわらかく光り輝いて。

まるで、マルコさんに見つめられているような、そんな錯覚に陥る。




「何かあったかい?」



聞こえてきた声に、慌ててその商品を棚に戻す。

マルコさんの元に戻れば彼は両手にあふれんばかりの様々な服を持っていて。



「え、ええと?マルコ、さん??」



思わず名前を呼べば、にっこり、それはそれは愉しそうに笑う顔。

その後ろではイゾウさんがうつむき肩を震わしていて。


「マルコっ、それは多すぎだろうっ・・」



あ、笑ってる。

イゾウさん笑ってる。

そしてその意見に賛成です。




「着てみろよい。」



何を言う間もなく、服と一緒に放り込まれた試着室。

そのまま着せ替え人形のようにこれもあれもと試着させられて。


最後にふわりとした青色ベースのワンピースを着せられて一連の流れはストップした。


「つ、疲れた・・・」


、どれか欲しいのはあったかよい?」


思わずつぶやいた私に対して、マルコさんはつやつやとしていて。

聞かれた問いに首を振れば困ったような表情を返された。


「どれも似合ってたからねい。・・・どれがいいというのがないなら、いっそのこと全部買っちまうか。」


ぼそりと、小さくつぶやかれた言葉。

何を言っているんだこの人は!!


「っ、マルコさんっ!!ありました!私欲しいのありました!!」


とっさに声を上げて、お財布を取り出したマルコさんを止める。

「ん、どれだい?」

笑顔と共に聞かれたのでこの店で唯一自分から手に取った髪留めをそっと差し出す。


「これ、がいい、です。」


「・・・これだけでいいのかよい?」


どことなく不満そうなマルコさんに苦笑い。


でも、私は、これがいいのだ。



「これが、いいんです。」


だって、


「綺麗な、マルコさんの色ですもん。」


ぽろりとそれが口から出た瞬間、あたりがしん、とした。

ずっと笑い続けていたイゾウさんすら動きを止めて。

しまった、と思い、慌てて口元を隠したがそれは何ら意味をもたず。



「っ、」


マルコさんが、くるり、こちらに背を向けてしゃがみこんでしまった。


え、どうしよう、私、今ひどいこと言った!


「っくははははっ」


慌てて覗き込もうとすれば突如響いた笑い声。

それは先ほどまで静かに肩を震わせていたイゾウさんではなく。

それはそれは楽しそうに、幸せそうに笑う声。

涙目のまま彼はこちらに距離を詰めて。


、って言ったな。ほら、これ俺の連絡先だ。もしマルコのことで何かあったら連絡しろ。相談でもなんでも乗ってやるよ。」


その言葉と同時に渡された名刺。

そこには確かに番号とアドレスが書いてあって。


「っ、まてイゾウ!!」


マルコさんの声にも反応せずイゾウさんは言葉を続ける。


「俺から番号を教えた女は、お前が初めてだ。」



名刺を渡したその手が、さらり、髪に、触れて。



今までの中で、一番、きれいに、イゾウさんは、微笑んだ。


































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