ドリーム小説
主人公になれない 2
「ど、して・・・」
口からでたのは意味のない言葉。
だれも拾ってはくれない言葉。
家に帰って、疲れたからとベッドに横になった瞬間、体に訪れた浮遊間。
それはあっさりと私を放り出した。
ぽい、とそれはそれは簡単に、私の体は宙に浮いていて。
上も下も、ただ、広がる蒼。
意味が分からない、理解ができない、その状態。
そして、私の体は何かにしたたかに打ちつけられた。
「ちゃん!ビール追加で!」
「はい、今行きます。」
にぎやかな酒場。
常連さんたちの声が広がるその場所。
注文されたものを運び、あいた食器を片づける。
それらの作業が、自然とできるようになっていた。
あのとき、放り出された世界で、私はある家に落ちた。
そこはとある町の小さな酒場で。
落ちてきた私を不思議に思いながらも介抱してくれた酒屋の主人が、家がないと行った私にすむ場所と働く場所を提供してくれたのだ。
酒場を半壊させた犯人だというのに、からりと笑ってそんなこともある、とのたまったときは、齢60は越えているだろうおじさまにうっかり惚れそうになった。
「ちゃん〜こっちにお酌して〜」
「私の手は二本しかないので、代わりに目の前のおじさまについでもらってください。」
呼び出しの声をあっさりと蹴って、次の仕事に向かう。
働きだしてまだ二週間ではあれど、小さな町のためすっかりと名前を覚えられて。
今まで一人で切り盛りしていたマスターに拍手を送りたくなるほどには忙しい。
そうやって、意味の分からない、この世界で、それでも私は何とか生きていたんだ。
そして、この世界が、どんな世界なのか、知るのは遠くない未来のこと。
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