ドリーム小説
主人公になれない 3
「、今日は酒場にでなくていい。というか、部屋にこもってろ。」
いつものように酒場の下準備をこなしていれば突如マスターにそんな言葉を言われて。
どうしてかと思うが彼の言葉に逆らうつもりはなくて。
「忙しくなったら呼んでください。」
下準備だけを手伝って、住居になっている二階へと下がる。
そういえば、昼に行った買い出しもどこかぴりぴりとしていた気がする。
子供たちの姿も少なく、どことなく閑散としていた。
あまりよくない輩でもくるんだろう。
ただ、軽くそう思っていたんだ。
下がにぎわいだしたのはまだ空が暗くならないうちからだった。
せわしなく飛び交う声にマスターの応対が響く。
忙しいだろうに、まったく私を呼ぶ様子はなくて。
降りなくてもいい、手伝わなくてもいい、そうは言われたけれど、ぶっちゃけすることもなくて。
裏で作業を手伝うくらいはできるだろう。
思い立ってからの行動は早く、音を殺して階下に降りる。
ちらり、のぞいたフロアには多くの大柄の男たちがひしめき合っていて。
そのまま奥のオーナーが作業をする台所へと足を踏み入れる。
「?!」
「やっぱり手伝います。」
どうしておりてきたそういいたそうな瞳を無視して、冷蔵庫から食材を取り出す。
この時間からこんな勢いではしゃがれては下準備したものだけでは足りないだろう。
「・・・表にはでるなよ。」
裏で作業に徹しろ、その言葉にうなずいて、フライパンに油を引いた。
私のこの世界でのレパートリーは決して多いわけではなくて。
けれども向こうの世界での料理の知識はもちろんもっているわけで。
あの世界の料理をこちらの世界用にアレンジして、そうやって作っていればなんだか常連さんたちに異様にうけた。
マスターにもそれをメニューとして提供してもいいというお許しをいただいたため、今回もそれらをつくる。
作る、運ぶ、下げる、の繰り返しをしてたマスター。
作るの段階を私が請け負ったことでマスターが少しではあれど動きやすくなったはずだ。
「・・・おい、これ、誰が作った?」
喧噪の広がっていたフロアに突如落ちた低い声。
それは、こちらのキッチンにも微かに届いて。
とたん、静まったフロア。
オーナーが何かしら対応しているのが聞こえたが、それよりも気になったのはその声で。
「奥に、だれがいるんだ?」
低い声。
広がる懐かしさ。
同時に浮かぶいらだち。
姉が泣いていた
笑いながら、涙をこぼしていた
もしかして、もしかして、もしかして
ふるえる手でフライパンをコンロに戻す。
ゆっくりとフロアへと視線を向けて。
マスターの止める声
それを遮る足音。
そして、フロアとここを遮るものが、開かれる。
確かに、そこに、奴はいた。
その特徴的な髪型で
眠たげな瞳を見開いて
小さく動いた口は、確かに「空」、と形作って。
「空ねえじゃなくて、悪かったね」
ああ、そうか、ここが、彼の世界か。
驚きよりもなによりも、ただ、漠然とそう思った。
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