ドリーム小説
主人公になれない 4
「なんで、ここにお前がいるよい・・・」
驚きと困惑、そして、落胆。
その表情を見た瞬間、私の口は勝手に動いた。
「そんなの、私が聞きたい。」
身も蓋もない私の言葉に、む、っと男の眉があがる。
でも、それは全部事実だもの。
気がついたら、この世界に落ちてきたんだもの。
「ごめんね、空ねえじゃなくて。」
彼のいいたい言葉であろうそれを再び口にする。
無理矢理に形にする。
私だって、想うもの。
どうして、ここにきたのが、私だったのか、って。
空ねえじゃなかったのかって。
「空は___」
「しらない、気がついたら私はここにいたもの。」
それ以外、なにもしらない。
あなたのことも、私のここにいる理由も
空ねえがいま、どこでなにをしているかも。
「そうかよい。」
小さくつぶやき、視線を逸らす男。
それは、つまり、空ねえを今も想ってくれているということで。
じくり、心臓がひどく痛む音がした。
そして、同時にいらだちが、広がった。
「ねえ、どうして。」
どうして、どうしてどうして、
そんなにも空ねえを想ってくれているならば。
あの人を愛してくれていたならば。
「どうして、あのひとを、一緒につれてこなかったの?」
大好きで大好きで、大嫌いな姉が、記憶の中で、笑う。
瞳を真っ赤に潤ませて、それでも、笑う。
「空ねえを、簡単においていったりしたの?」
私の言葉に、空気が、凍った。
「俺が、簡単においていった、だと?」
どろり、あふれる重たい空気。
まるで私をがんじがらめにするかのように。
「あれが、望んだんだよい。」
向けられた視線は鋭く、私を射る
「俺は、海賊だ。ほしいものならばどうやったって手に入れてやる。そのつもりだった。」
ああ、海賊だったんだ。
そんなことを思う余裕はあれど、その真意はつかめずに。
「お前の、せいだよい。」
ゆるり、彼の手が、持ち上がって、私ののどに、触れた。
ぞくりと背筋が凍る。
瞳は暗くて、私を今にも殺さんばかりの感情が込められて。
「あいつは、お前を独りおいてはいけない、そう言って俺の手を拒んだんだよい。」
手のひらが、大きな手のひらが私の首を、取り囲む。
じわり、じわり、そこに力がかけられていく。
「なのに、お前は、あいつをあの世界においてきたと、そう言うのかよい?」
「、けほっ、」
息が、苦しい。
ああ、でも、それよりも、あの人が拒んだ理由に私を使ったことが、苦しい。
あの人は、臆病なあの人は、私を理由に、自分を守ったんだ。
この世界をおそれて、この人との愛を一時のものとして。
あの人のじゃまにしかなれない私にも
あの人をおいてきてしまったことにも、
あの人が私をいいわけに使う弱さも
ああ、すべてがすべて、もう、
いやだ
「マルコ!!」
突然、のどの圧迫がなくなって、息ができるようになる。
むせながら崩れ落ち私にマスターがあわてて近寄ってくる。
体をおり曲げて、必死に息を吸う私にマスターが優しく背中をなでてくれた。
「おまえなにしてんだよ?!」
「うっせえよい、サッチ。」
聞いたことのない声が、彼をいさめる。
ゆるり、あげた視線の先、目立つリーゼントがあった。
「一般人に手ぇだすとか、いつものおまえじゃねえだろ。」
リーゼントの言葉を無視して、彼はくるり、踵を返す。
「おまえのことはどうでもいいが、空にまたあえるかもしれねえ可能性をつぶすつもりはねえよい。亭主、こいつはつれていくよい。」
反論など許さぬという口調で、彼はいう。
空ねえの意志は尊重しても、私にはそんな価値はない、といわんばかりに。
そうして、私は、彼によって彼の船に乗せられた。
彼の自己満足のために、私は彼によって拘束された。
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