ドリーム小説








主人公になれない 5















私の場所に現れたその人は、私の姉に助けられて。

二人は気持ちを通わせたのに、”私”を理由に関係は途切れた。

私を理由にした姉は、きっとあの世界で毎日を過ごしていて。

理由になった私を憎むこの人は、手がかりである私を手元に置いた。



そう、今、この人の元に、いるのは、この人が求めた姉ではなく。

何も持たない、理由にされた私だけ。









モビーデック。

大きな鯨をかたどるそれは、とてもたくさんのクルーたちの家らしい。

優しいマスターから離された私は、あの人に、この船に放り込まれて。

「この部屋からでるな。いらないことをするな。誰とも話すな。」

理不尽にその三つの言葉を投げつけられた。

この部屋はどうやら彼の自室であるらしく。

仕事をするとき、眠るときはこの場所に戻ってくる。

ご飯の時だけは、彼と一緒にではあれど外にでるのは許された。


何かできることはないか。


時間を持て余して問いかけた言葉は、ひどく不機嫌そうな彼に一蹴されて。

「黙って、ただ、そこにいろ。」

その瞳が写すのは私という存在ではなく。

「おまえがここにいる理由は、空への手がかりだよい。」

目的にたどり着くまでの、道具にすぎない。





がやがやと多くの人でにぎわう食堂。

この人は朝を食べない。

私がここに来ることができるのは、あの部屋から出ることが許されるのは、一日二回。

昼と、夜と。

けれども夜になると宴と称した飲み会を甲板で行うことも多く、その場合は私は部屋で一人でご飯を食べることになる。


この船に乗って二週間。

それは、もう、週間となってしまった。


「ほら、いっぱい食べな!」


にこやかな笑みで私のお皿に料理を持ってくれるのは、あの酒場でも助けてくれたリーゼントの人。

サッチ隊長、と呼ばれるその人はいつだって私に笑顔をくれる。

”ありがとう”

その言葉をあの人に聞こえないようにそっと伝えれば、さらに満面の笑みを返してくれて。

「これ、マルコには秘密な?」

そういいながら小さな袋に入ったクッキーをトレーに乗せてくれた。



この船で唯一私に話しかけてくれる、優しい人。



彼の横に座って、食べるのが早い彼に追いつくために必死にご飯を放り込む。

それでも最後にはこの人を待たせてしまうわけで。

最後のひとかけらを口に含んだ瞬間に、彼は立ち上がって動き出す。


あわててついていきながら、ちらり、食堂に目をやる。

はじめは向けられていた不振そうな視線。

今ではそれすら無関心に変わって。

何もせず、何もできず、ただあの部屋にいるだけの私を、きっと彼らはよく思っていない。

この人の客人というだけの立場の私。

それ以外の情報を持たない彼ら。

そして、接することも許されない私にはその情報を更新することすらできなくて。


「さっさとしろよい。」


低い声。

向けられはしない視線。

そっと彼らから目をそらして、また、私はあの場所に戻る。























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