ドリーム小説








主人公になれない 6
















「偵察にでたからね。今日は俺と過ごそうじゃないか。」

お昼になっても部屋に戻ってこないあの人に、お昼ご飯はどうしようかとぼおっとしていれば叩かれた扉。

開ければそこには一言でいって、ザ、和服美人、がそこにいた。

黒い豊かな髪を器用に結い上げて、眦に紅の色を引くその人。

イゾウ、そう名乗った彼はすこしごつごつとした手で私を外に連れ出してくれた。

あの人以外と訪れる食堂。

そっと横を見上げれば柔らかな笑みを返されて。

「好きなものをゆっくりと食べな。」


この船に来て、初めてゆっくりと食事というものを味わった。

おいしい

そうつぶやけば優しく頭をなでられて。

「すまねえな。」

そんな言葉をつげられる。

真意がわからず首を傾げれば、困ったように笑われて。

「少し前、マルコが行方不明になった時期があってな。
一週間ほどで見つかったんだが、そのときの奴はひどく荒れててな。」

緩やかな口元にキセルを乗せて、煙を吐き出しながらイゾウさんは続ける。

「荒れたと思ってたら落ち込みだして。」

くつくつと笑う姿はどことなく楽しそうだ。

「そんなときだよ。おまえさんをつれて帰ってきたのは。」

そこでようやっと気づく。

イゾウさんが言いたいこと。

「親父以外のことでは死んだような目をしていた奴が、手がかりを見つけたとおまえを連れてきた。」

射抜くような瞳に、背中がふるえる。

「何もやることも与えず、軟禁状態。普通なら助けてやればいいんだがな。」

続けられる言葉は私にとってはひどく苦痛をもたらす。

「だが、すまんね。俺らは海賊。普通じゃねえ。家族を助けるためなら、それ以外を犠牲にすることだって、たやすいんだよ。」


煙が宙を舞う。

彼との距離を遮断する。

気づいてしまった。

私をみていた瞳に、慈しみや優しさなど一つもないのだと。


そこにあるのは、大切な家族が願うものをもたらすかもしれない私を、決して逃しはしないという意志。



つまり、この人が心配していたのは私ではなく、彼。

この人が私に謝ったのは、私に対する謝罪ではなく。


ただの社交辞令。



今までおいしいと感じていた食事。

一瞬で粘土でも食べているような気分になった























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