ドリーム小説
お前は、主人公じゃない 2 マルコ視点
見た目は、全く似ていない。
けれど、ふとしたときに見せる表情や声。
仕草など、似通っているところは多々あって。
違うとわかっていても目に留まる。
そしてその度に、空じゃないことを再確認しているような錯覚に陥る。
空の妹であれど、俺はこいつを信用しているわけではなく。
何かをさわらせるのも、やらせるのも、嫌で。
家族に会わせるのは本当に許せなくて。
こいつじゃない。
こいつじゃないんだ。
俺が望む姿は、
声は、
香りは、
腕は、
体は、
足は、
表情は、
俺の望むのは
こいつじゃ、ないんだ。
親父にはやりたいようにすればいいと言われた。
イゾウにも、サッチにも。
俺のやることに口を出すことはなく、ただ、見守られているようで。
視線から、態度から、守られていると、感じる。
女に甘いサッチだから、こいつを少しだけ気にかけているようだが、それだけで。
俺がいないときに、イゾウがこいつに声をかけたのだろう。
帰ってきたとき無言でイゾウに頭をなでられて。
エースによって外に連れ出されたのを観たときは、いらだちが増した。
俺の家族に、大事な弟に勝手にふれるな、と。
恐怖に震えるその姿に、あいつであればと何度も感じて。
赤髪がもたらした情報。
空が、この世界にいるかもしれないと言う情報。
瞬間、動いたのは俺ではなく。
あいつの懐から取り出されたのは、携帯電話。
空もずっと持っていた、向こうの世界での連絡手段の一つ。
周りの視線が自分に向かっているなどと思ってもいないのだろう。
かすかにふるえた指が、空への路を造るように。
「・・・?」
つながった、その瞬間。
ぼたぼたとみっともないくらいにこいつの瞳から涙はこぼれだして。
嗚咽に混じって聞こえる声は、望んでいた彼女を呼んでいて。
やっと、つながった。
何かを叫ぼうとしたこいつを放って、その指から電話を奪い取る。
目の前でなく姿に心揺らされることもなく。
電話の向こうから聞こえるのは望んでいた愛しい声
会いたい
感情のままに言葉を紡げば、ふわり、電話の向こう、彼女が笑う。
「あの子を守ってくれてるのね、ありがとう、マルコ」
それはそれは、慈しみ、愛しいという感情をこめられて、思わず言葉に詰まる。
答えずにいれば、彼女の声はさらに弾んで。
「マルコ、迎えに来て?早くあなたにも、あの子にも、会いたいわ。」
ああ、もちろんだ、迎えにいってやる。
ちらり、こいつに視線をやれば未だにぼとぼとと滴を落とす姿。
空にあえるのはとてつもなく嬉しい。
が、それをこいつに邪魔されるのはちょいと釈で
ぼとぼとと落ちていく滴を観て、愉しそうに笑う赤髪。
ああ、そうか。
それならば、会わせなければ、いいじゃないか。
幸いこいつに興味を持つ赤髪がここにいる。
そうだな、空にはこいつが赤髪についていったと伝えればいい。
「赤髪。その女、やるよい。俺にはもう、必要ねえからよい。」
俺にはもう、不要な存在だ。
俺の言葉にゆるりと色をなくしていく瞳を一度だけ観て、空へと舞い上がる。
そろそろ、あいつを独り占めさせてくれよい。
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