ドリーム小説
花嫁修業 船員
ハートの海賊団の船は、潜水艦だ。
かわいらしい黄色に少し丸いフォルム。
海賊のマークが描かれていなければだれもそれを海賊船だとは思わないだろう。
潜水艦の利点の一つとして、戦いたくないときは水中を進むことができる。
逆に敵に遭遇したいときは外でゆらゆらと漂うのだが。
さて、は現在この船においてコックという役を背負っている。
以前も紹介したとおり、この船に乗るクルーたちは一人をのぞいて皆甘党であるため、必然作るものはそちらに偏る。
一度辛い料理を出したときはシャチが喜び、それ以外のメンバーには大不評。
辛い、ひどい、といいながらなんだかんだで皆それを食べてくれはしたが、その日の皿洗いの当番にはボイコットされ、夕飯後のデザートをただただ催促され、トラファルガーは不機嫌そうに一日部屋に引きこもってでてこなかった。
子供か、と思いはしたがもうこれ以上面倒はしたくないので仕方なく、やっぱり甘めの味付けに落ち着いたのだが。
さて、今回は私が所属するハートの海賊団について少しはなすことにする。
朝
見張り番を抜いて一番に起きるのはコックである私。
見張りから降りて睡眠にはいるであろう彼らの為に、胃に優しいものを作っておく。
ついで、これから見張りになるクルー用にスタミナがつくものを拵えながら、同時進行で大量生産できる朝ご飯を作り上げる。
「おはよう。」
基本的に当番であってもなくても、一番に起きてくるのはぼんぼりがついたぼうしがかわいらしいペンギンである。
帽子の下に隠れた瞳は若干たれ目で、どうやら本人的にはそれがコンプレックスらしい、かわいらしい人だ。
ひきたてのコーヒーを注いで、ブラックのままで彼の前に置いてやれば、素直なお礼が帰ってきて。
作業を再開した私の背中に、彼のぼんやりとした視線が突き刺さる。
朝が弱いらしい彼は、頭を覚醒させるためにみんなより早く起きるようで。
序でに言うと、猫舌なため飲める熱さになるまでそのままの姿勢だ。
ちらり、もう一度彼に視線をやって、彼について思考を巡らせた。
トラファルガー・ローの右腕的存在、ペンギン。
頭脳明晰冷静沈着、そしてなにより天然である。
航海士として船のすべてを預かる彼は朝早く起きて夜遅くまで働くある意味ワーカーホリック。
掃除、洗濯などのクルー持ち回りの当番にも頻繁に顔を出し、主婦顔負けの技術を惜しみなく披露する。
長い航海の間、できた暇な時間には基本的に本を読んだりトレーニングに費やしたり。
ただし、本を読んでいると見せかけて甲板で眠気に負けて撃沈している様もちょいちょい見受けられる。
体術的には、シャチ、ベポよりも下。
中距離からの銃、飛び道具の使用が多い。
というか道具を使った戦闘方法のが強い。
自分に向けられる殺気にはなぜか反応が鈍くて、代わりに仲間たちにむけられる視線には反応が早い。
トラファルガーにはもう崇敬に近い感情を抱いている。
物申すことは多い、けれど、なんかずれてる。
私に対しては、はじめは警戒の色を抱いていたが、料理を一つ披露した瞬間、ころっと、その警戒を解いた。
まあ、彼だけにいえることではないのだが。
「」
ようやっと覚醒してきたのか、彼の声が、普段のしっかりとしたものになってきた。
「なんです?」
フライパンから手を離さずに問いかける。
「次の島は変わった食料がたくさんあるらしい。」
低温で平坦な声で告げられるそれに、興味引かれるのは料理人としては当然なことで。
ペンギンを見つめ続ければ、くつり、小さな笑い声。
いつの間にかのみおえられていたカップ。
そっとシンクにおかれて、優しく頭をなでられて。
「次の島ではゆっくりすればいい。」
頭脳明晰、冷静沈着、少し天然混じりのハートの海賊団航海士。
彼は、一人一人を気にかけてくれる、優しいお母さんみたいな人だ。
朝ご飯を作り上げて、続々と食堂に入ってくるクルーたちにご飯を装っていく。
パン嫌いな船長の為に基本的にご飯の方が多いメニュー。
楽しそうにご飯を頬張る姿はコック冥利に尽きるというもので。
「!」
「朝ご飯ちょうだい!」
今日は珍しくシャチとベポが一緒に起きてきたようで、一気に食堂の中がにぎやかになる。
「おはよう、はいベポ」
きらきらと愛らしい瞳を瞬かせるベポにはベポ用の朝ご飯を。
確か見張り当番だから、スタミナがつくメニューを乗せてあげて。
デザートを多めに付けてあげれば子供のように笑顔があふれて。
「シャチはこっちね。」
シャチにはほかのみんなよりも少しだけ辛目に作った味付けのものを。
「ありがとな!!」
太陽みたいにまぶしい笑みに、こちらもふわりと笑みを浮かべずにはいられなかった。
戦闘要員、ベポ。
戦闘要員だけあって、この船の中で純粋な戦闘能力に順位をつけたならばこの子が一番強い。(船長を抜いて、だけれども。)
時折手合わせをしてもらうけれど、力で勝てるわけもなく、小手先の技は簡単にいなされてしまって、一度も勝ったことはない。
二足歩行で言葉を話す、不思議なシロクマ。
好物はアザラシ。
人間の感情には敏感だけれども、なぜそこに至るのか、という経緯は難しいようで、よく人間って面倒だね、と感想を述べる。
好奇心旺盛のわりに、打たれ弱くて、すぐに落ち込む。
女の人は柔らかくていい匂いがするから好き、でもシロクマの雌の方がいい、と告げるくらいには女好き。
拾ってくれた船長が大好きで、大好きで、たまらない。
よく抱きついているけれど、トラファルガー自体、ベポはお気に入りのようで、怒ることはなく。
私に対してもよく抱きついてきたり、昼寝を一緒にしようと誘ってきたり。
三回に一回くらいは誘惑に負けて一緒に眠ったりしている。
「、」
柔らかな、見た目に似合わない少しだけ低い声が私を呼ぶ。
ふんわりとした毛皮が触れて思わずすり寄れば、ベポもうれしそうにすり寄ってきた。
「今日もすごくおいしかったよ!」
ぎゅう、と抱きついて感想を述べられれば、うれしくないわけがなくて。
「そういってもらえるとうれしいよ。」
ぎゅうぎゅうと抱きつき返してみた。
ペシン
軽い音。
何事かと顔を上げれば、少し涙目でうずくまるベポ。
後ろにはあきれた顔したシャチがいて。
「ベポ、おまえ今日見張り当番じゃなかったっけ?」
シャチの言葉にぴたり、止まったベポだったが、すぐに顔色が青くなっていって。
「あーー!!」
ばたばたと響く足音、遠ざかる白。
「、お昼も楽しみにしてるねー!!」
それでもその言葉は忘れない。
とてもとてもかわいいクルー。
「ごっそさん。」
ベポを見送っていればシャチがトレーを返してきて。
「うまかった。」
にかり、相変わらずまぶしい笑み。
「それはよかった。お昼の希望は何かある?」
受け取りながら問えば、こてり、首を傾げて考え出したシャチ。
うーん、と首を傾げる姿は存外にかわいい。
彼、シャチは見た目と中身がもっとも違う人物かもしれない。
お調子者のムードメーカー。
きっとそれが彼を現すのに一番適切。
けれども、そのサングラスの奥に潜む釣り目の瞳は、いつだって油断なくあたりを警戒していて。
へらへらと常に笑いながら、常に真実を探ろうとする。
戦闘力も高く、有事の際には冷静沈着に物事を解決へと導く。
ハートの海賊団で会計的役割を担う、まさかの頭脳派の参謀である。
ペンギンはどうも素直すぎるきらいがあって。
彼の代わりにさりげなく疑い、悪意ありと判断した場合にはあっさりと相手を切り捨てる。
この船で一番非情な人物かもしれない。
はじめ、私を見つけたのは彼だったけれど、この船に乗ることになって私を最後まで警戒し続けたのもシャチだ。
笑顔でにこにこと気を許したようにつきまとって、そうやって、いつだって私を監視し続けていた。
いつだって一番に食堂に現れておなかが空いたと一番に食事に口を付けて、船長のところに届けてくると、笑った。
トラファルガーローが、私にハートの海賊団のマークを渡した瞬間、それは終わったけれど。
それ以降はちゃんと、仲間だと、そう笑いながら告げてくる。
けれど、その瞳はいつだって告げていて。
そのマークをはずした瞬間から、私に刃を向けるのだと。
だから、私は安心して彼のそばにいられる。
私を唯一認めないシャチのもとに。
「、俺昼は麺類が食べてえ。」
思いついた、とばかりに手を伸ばして、主張するシャチ。
朗らかなその様子はかわいい、と表現するのが一番ふさわしい気がして。
「了解。じゃあみんなには冷麺でもつくろうかな。シャチは、少しからめで、ね」
「よっしゃあ!これで午前中も頑張れる!」
ガッツポーズをして見せて、シャチは大手を振りながら食堂からでていった。
いつだって私を切り捨てられる、素直な男、それがシャチである。
一つだけ残るのは、この船の船長のもの。
決して自分からは起きてこない男。
当番と一緒に食器を片づけて、さてさて、あとは彼のものだけ。
エプロンを解いてトレーを手に持って、向かうはこの船の船長の元。
トラファルガー・ロー
ハートの海賊団船長。
冷静沈着、眉目秀麗、むかつくくらいに長い足と身長を持つ、もふもふ帽子の変人男。
ついでにいうと目つきも最悪。
寝不足なのか、何なのか、常に隈を目の下に作っている。
夜遅くまで明かりが消えない部屋、起床時間の遅さから、前者だろうと思われる。
というか昼夜逆転。
結果、朝起きてこない。
身の丈以上もある刀を常に持ち歩き、その腕もなかなか。
医者としての知識は豊富で手先も器用。
そしてオペオペの実の能力者。
内容としてはよくわからない。
ただ、なんか、いろいろせこい気がしている。
ある意味トラウマになる。
自分の船を、クルーを愛し、所有物に手を出されたときには、静かに怒る。
見た目の割に甘党。
医者だから、栄養摂取などはちゃんと考えているがそれ以外の嗜好品、つまり甘いものをよく接種している。
コーヒーは、ミルクと砂糖を入れたがる。
もふもふしたものが好きらしく、ベポを枕にして昼寝をする姿をよく見る。
整理整頓は苦手なよう。
ただし、しっかりとどこに何があるかを認識できている。
時折ペンギンがお母さんのように片づけているようだ。
過去については何も話さない。
まあこちらも聞く気はないのでいいが。
私を乗せた理由は本当に、コックがいない。
なんかおもしろそう。ということらしい。
解せない。
コンコン、とノックをするが、返事はない。
いつものことなのであきらめて中に入れば、珍しく彼はベッドに起きあがっていて。
「おはようございます、船長。」
告げれば、ぎろり、とした目が向けられた。
そして
「”ROOM”」
突然悪魔の実の能力を発動させたかと思えば
あっさりと私の体をバラバラにして、そのくせ自分はしっかりとご飯を手に奪っていて。
「俺はまだ、眠い。」
その一言だけいうと、トレーを机に載せて、あっさりと再度布団に横たわる。
「ええ・・・私このまま?」
私の言葉にちらり、視線をこっちにやって笑う。
「それじゃなにもできないだろう。」
「俺が起きるまではそのままぼおっとしとけ。」
「俺みたいな隈があんのは、俺だけで十分だ。」
込められる言葉の意味をはかれないほど幼くはない。
隈を作るまで働くな、と。
少しは体を休めろ、と。
自分勝手で横暴で、変人でいじわるで、
とても、とても、優しい馬鹿な人。
でも、私は知っている。
この人は、私のこれからを作るのに、必要不可欠な人、なんだと。
※※※※※※※※※
基本的にハートの海賊団のクルーは船長至上主義。
どっちかというと崇敬、アイドルに向ける反応に近い。
自分たちは船長のもの、精神。
怪我しない、傷つかない、いなくならない、死なない、みたいな
船長が俺たちを守りたいって思ってるなら、俺たちは俺たち自身を守るよ!みたいな。
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