ドリーム小説
花嫁修業 夏島
青い空
白い雲
そして、美しい海
きらきらと光を反射させる水面は、この世界の宝石を集めたかのようにすばらしくて。
海賊として生きているものたちに、海が嫌いな奴なんているわけがない。
たとえ悪魔の実を食べたものであろうと、この美しさに引かれない奴なんか、いない。
「いやっほおおおお!!」
ついたばかりの夏島。
あまりにもきれいな海。
それはそれは楽しそうにその海に飛び込むクルーたち。
もちろんそれは私も例外ではなく。
きらきらと輝く水面に、着ているつなぎを脱ぎ捨てて飛びこむ___
否、飛び込もうとした。
「いっ、」
後頭部への衝撃。
それは目の前に星を散らす勢いで。
思わずしゃがみ込めば、がしり、今度は痛む頭を捕まれる。
「っ、いた、いたいいたいっ!」
涙目で訴えるが、その手がゆるむことはなく。
「っ何ですかっ、船長!!」
かすかに見えたイレズミから人物を特定し叫べば、ぱっ、と簡単に手ははずされて。
つまり、地面に落とされたわけで。
「せめて泳ぐための格好をしろ。」
痛みにもだえる私の耳に入ってきたのはそんな言葉。
いったいなにを、と見上げれば大変不機嫌そうな瞳とかち合うわけで。
「水着とか、別に着なくても___」
持ってないわけではないけれど、いつもそのままの格好で泳いでいたから。
今更だろう、そんな気持ちを込めて言葉を紡ぐ。
「ここは俺の船だ。おまえは俺のクルーだ。俺の言うことには従え。」
言い放たれた言葉。
同時に投げられる巾着袋。
どしりと重いその中はどう考えてもお金で。
本当に、不器用な人だ。
そう思わずにはいられない。
自分の所有物であると、そう告げずにはいられないのだろう。
首にかけたままの印がしゃらり、音を立てる。
そして、とてもかわいい人。
自分の言葉が通らないと子供みたいにすねて、機嫌を損ねて。
私をにがさないと、返すつもりはないと、何度だって告げるのに。
そのくせ、私の体に印を刻むことはせず。
とびきりにかわいいわがまま。
それならば笑って受け入れてあげましょう。
小さく笑いながら踵を帰した彼に、叫ぶ。
「あいあい、船長!可愛いの買ってきますから、楽しみにしててくださいね。」
愉快な気分を抱えながら、陸地に降り立つ。
ログが溜まるには数日あるらしいこの島。
食料品の調達は最終日でいいけれど、ついでだしいろいろ回ってみようか。
そんなことを思いながらかわいい船長の機嫌を直すため足は一直線に水着屋さんに向かった。
船のそばのビーチにて。
目的の人物はパラソルの下、悠々と読書を続けていて。
「船長」
これで文句ないでしょう?
そんな意味を言外に込めて、彼の前で笑ってみせる。
身長はそんなに高くないけれど、凹凸はある方だと自負している。
色は黄色。
この海賊団のシンボルカラー。
一番好きなのは蒼だけど、その色はもうたくさん持っているから。
ビキニといわれるそれだけど、柔らかなレースの縁取りが繊細さを醸し出しているんじゃないか、と思っている。
白髭のマークをさりげなく隠しながら頭上でまとめた髪。
思ったよりきれいにまとまってうれしい。
「船長?」
せっかくの水着、一番に披露したのに彼は微動だにせずこちらを見つめていて。
「、かわいい!!」
代わりに反応してくれたのは、かわいいかわいいシロクマのベポ。
きゃーきゃーと女子みたいにほめてくれたら悪い気などするはずもなくて。
「!?」
ベポの声に何事かと水からあがってきたシャチが驚いたように声を上げる。
振り向けば、ぽかん、と口を広げるシャチの姿。
どうだ、とばかりに近寄って下からのぞき込めばあわてたようにシャチは距離をとって。
「思っていた以上にあるんだな。」
ぽつり、つぶやかれた静かな声。
ペンギンが感心したようにこちらをガン見していて。
失礼な。
思わず声を上げようとすれば、くい、と顎を捕まれた。
「ちゃんと女なんだな。」
右へ、左へ。
捕まれたまま首を振られる。
至近距離で見る隈の大きい顔は大変な威圧感だ。
「だが、これはいらねえな。」
ぐ、と首を固定されて、そのまま流れを見守っていれば、ぎちり
首に感じたひどい痛み。
それは、ちょうど、白髭の印の場所。
「っ、せんちょ、」
逃げようと腕を振り回すけれどそれはなかなか離れてくれなくて。
べろり
最後にもう一度、とばかり首をなめられて。
ようやっと離れてくれたその人は、自分の唇をなめながら愉しそうに笑った。
「マークは一つで十分だろう?」
涙目で船長をにらみつける。
前言撤回。
かわいいけど、本当に面倒な人だ。
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