ドリーム小説






花嫁修業 甘党














先日、半ば強制的にハートの海賊団クルー&コックとなった。

ウォーターセブンを目的地にしていた理由はただ単に足がほしかっただけなので、今の目的地は特になく。

ただあの人が望むいい女を目指して(___というか、目指すためにはどうすればいいのか、すでにふわっとわからなくなっているのだが。)日夜努力を続けているわけで。


とりあえずハートの海賊団コックに収まったので、料理を磨いてみることにした。


が。





ここの海賊団、ほぼ全員が甘党という信じられない海賊団だった。


「いいか。食事には毎食デザートを付けろ。」

隈の濃い顔で、非常に凶悪な顔でトラファルガーはそう言った。

「三時のおやつも忘れないようにな。」

トラファルガーに続くようにペンギンもそう告げて。



それが、一番はじめ作ったご飯への感想だった。

味について全く述べていない。

思わず動きを止めた私にシャチが気の毒そうに視線をはずす。

「・・・味については?」

とりあえずそれだけは、と思い問いかければ、ゆらり、トラファルガーは首を傾げた。

「甘けりゃいい。」


ひでえ



その言葉しか浮かばなかった。



十人十色

皆が皆、見るものに持つ感情も、聞くことに関する感覚も、もちろん食べたものに関する味覚も、全部全部、違うはずなのに。

この海賊団、トラファルガーの言葉にただただうなずきやがった。





ちゃんとした感想がもらえないのがこんなに苦痛だとは思わなかった。

白髭海賊団のみんなはなんだかんだでおいしい、まずい、このあじが好き、嫌い、ちゃんと感想をくれる人たちばかりだったから。



「あー・・・なんか、ごめんな?」

キャスケット帽子に手をやりながら本当に申し訳なさそうにシャチが言った。

食器を洗いながら、ちらり、目をやって一つため息。

そういえばこの男がすべての元凶だった。

ため息をやめて舌打ちを一つ。

「ひでえ!!」

なんか声が聞こえたけれど気にしない。

無視だ無視。

「・・・ご飯、うまかった。」

横でなにもはなさないな、と思っていれば突然の感想。

思わずばっ、とそちらを見ればふにゃり、笑み。

「俺はおまえの作る飯、好きだぞ?」

初めてのちゃんとした感想に頬がゆるむのがわかった。

「あと、俺はもう少し辛かったり味が濃い方が好き。」

にこにこと告げられる言葉たち。

同時に沸き上がる喜び。

「・・・なら、次はもう少し濃いめにするね」

そう言えば大きくうなずかれる、が、

ぴたり、その動作が止まる。


「あーでも、あれだ・・・」


しょんぼり、今度はどことなく落ち込んだように彼は視線を落として。

「ここの皆俺以外全員甘党だからな・・・。俺に合わせるとたぶんほかの奴らが合わねえ。」

・・・前のコックが降りた理由がわかった気がする。

毎日毎日甘い味付け、デザート付き、いや、これ海賊船じゃないだろう。

「シャチ・・・もしかして今まで苦労してきた・・・?」

一人だけ辛党・・・。

口に合わないのも多かったんじゃないだろうか。

「わかってくれるか?!」

ぶわ、とサングラスの向こう側からぼたぼたと滴が落ちていく。

詰め寄られて思わず距離をとったけれど悪くないと思う。

「この船、ほんっとう、船長第一主義者しかいねぇんだよ!!」

がくがくと肩を捕まれて前後への揺さぶり。

痛い、非常にいたい。

「ぇえと、たとえば、ぺんぎん、とかっ、」

ぐらぐらとしながら告げるがシャチの手はゆるまない。

「あいつが筆頭に決まってるだろうがぁぁ!!!」

あーですよねー。

その同意は言葉にはならなかったけれど。

「船に乗る前は俺と同じで甘いものなんか嫌いだって常に言ってたのに!!乗った瞬間、キャプテンが好きならばって!!」

結果、毎日食後のおやつを望むようになったのか。

「シャチ、も、船長第一主義、でしょ?」

ぐわんぐわんが、そろそろ限界だよ。

目も回ってきた。

それでも必死に言葉を絞り出せば、ぴたり、シャチの動きが止まる。

「・・・・・・・っ、あったりまえだろうがああ!!」

が、一瞬の後、全力でぐわんぐわんと振り回された。

あー、気持ち悪い。

そうですよね、シャチだって、その通りですよねー・・・。

「俺だけ、甘党に、なれなかったんだよ・・・」

いやいや、人の味覚なんて、本当にそんなにすぐに変わるもんじゃない。

シャチはがんばったよ。

気持ち悪いながらもがんばってその言葉を伝えれば、ぴたり、シャチがとまった。

「・・・本当にそう思うか?」

一つうなずいてみせれば、ふにゃり、シャチが破顔した。

「・・・ありがとな」

「こっちこそ、ありがとう。」

落ち込んでいた気分が幾分か、楽になった。

シャチのおかげ。

ふたりしてへらへらと笑い合っていれば、そういえば、とシャチが私に人差し指を向けて、楽しそうに言った。


「ああ、それと。キャプテンは簡単にほめる人じゃねえからな。マイナスを言われなかったならば気に入られたんだって、そう思ってたらいいよ。」


その言葉に、息が止まった。

あの気むずかしそうなあの人が、そう思ってくれているということに。


「今日の味がベストだった、ってことだ。」

にかり、まぶしいまでの笑み。

それはこの潜水艦の中、まるでお日様みたいにきらめいて。

「ありがとう、シャチ!!」


思わず、体が動いて、ぎゅう、とその体に抱きついていた。




































※※※※
甘党なペンギンはかわいいな、と思っただけの話









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