ドリーム小説






花嫁修業 所有物




















体中の血が燃えるように熱くなった。

きっと、今この身にこのつなぎを纏っていなかったら、私は自分の思うままに相手に飛びかかっていただろう。






「白髭の家族ごっこのまねでもする気か??」




とある夏島。

とある酒場。

海賊が集まる無法地帯にあるそこ。


トラファルガーやベポ、ペンギンにシャチなど、まあつまり船番以外で酒を口にしていた。


「あの白髭のとこみたいに、家族ごっこでもするつもりか?」


突然耳に入ったその言葉。

ぴたり、酒を運ぶ動きを、やめた。

耳を澄ませて、その言葉の先を探る。


目をやった先には、みたこともない海賊団。

赤ら顔でがなり立てるそれは、私の家族への、侮辱の言葉たち。



許せなかった。



家族ごっこ、そんな言葉。

私の大事な家族を、愛しい人たちを、侮辱する言葉。

きっと親父さんはほおっておけとわらう。

隊長たちはあきれたように鼻で笑って、憤る隊員をなだめるのだろう。


その瞳に怒りの炎を宿しながら。






静かに響く声。

私の名前。

右手にそっとベポのもふもふした手が置かれる。

わかってる、わかっているよ。


私が今身に纏っているのは、ハートの海賊団の印。


だから、私が今動くわけにはいかない。


お金をカウンターに置いて、ゆるり、立ち上がる。


「先に戻ってます。」


その言葉だけを告げて店を出る。

最後に奴らをもう一度だけ見て、その姿を、印を、記憶した。







夜半、抜け出した船。

向かうのは、奴らがいた酒場。

身に纏うのは、スリットの大きなロングドレス。

つなぎは船においてきた。

髪はあげて、肝心な印はかすかに隠して。

カラリ、音を立てて開いた扉。

そこには案の定、まだ奴らがいて。


コツリ、コツリ、音を響かせて奴らへの距離を詰める。

うろんげな視線が向けられるが、ふわり、笑ってみせれば、愉しげなものに変わる。


「どうした、お嬢ちゃん。」

「一人で酒か?」

「俺らがつきあってやるよ。」

近寄ってきた一人が腰に手を回すのを、にこり、笑って受け入れれば、さらに相手の調子はあがって。

そっとその回された腕に手を当てて、そっとささやく。

「ここじゃないところ、行きたいの。」

ねえ、お願い。

そう言いながら他の相手にも視線をやれば、それはそれは愉しそうに立ち上がって。


「俺らの宿につれてってやるよ。」


案の定、そう言葉を発して動き出す。



外へとでた瞬間、回されていた手を、つかんで、相手を引き倒した。


酔った相手の力など、隊長たちに比べれば、何でもない。

突然のことにざわめき出す相手たちにゆるり、視線をやって、笑う。


「私の相手、してくれるんでしょう?」


一人、二人、地面にたたき落としながら、あの言葉を発した中心人物へと足を向ける。





「私の家族を侮辱したこと、許さないから。」




ざわり、吹いた風。

なびく髪。


意識のあった男が小さく叫ぶ。


「こいつっ、白髭の印がっ!!」

「親父さんの名前を軽く口にしないで。」


私の大好きな人たちの名前を。

愛しい家族たちのことを


するり、かまえる、人の命を奪う刃。

そっと刃に指を走らせて、ふわり、笑う。



後悔すればいい、あの世で、この世界ではない場所で。

私の愛しい人たちに、向けた言葉たちを。





構えた刃を相手へとねじ込むその瞬間、




ROOM

響いた声。

揺らぐ視界。

ぐらりとした意識を持ち直せば、目の前には黄色いパーカー。

持っていた刃は地面へと落ちた。

後頭部を押さえられたそれは、トラファルガー以外を見ることを許さないように。

代わりに耳に響いたのは先ほどまで刃をねじ込むはずだった相手の悲鳴。


「ペンギン」


目の前、トラファルガーがけだるげにペンギンの名前を呼ぶ。

「後は任せてください。」

簡単に返る返事はすべてを理解したように。

ゆうるり、遠ざかっていく、自分とトラファルガー以外の気配。


目は、相変わらず彼以外を見るのを許さないように。




呼ばれる名前。

呼ばれなれてきた、声。

私を、と言う存在を、この場所にあることを認める声。

まっすぐな、鋭い瞳が私を穿つ


するり、首元に細い指がはう。

印を、証を、なぞる。


「おまえは今、俺のクルーだ。」

まるでその印を少しでも掠れさそうとするように。

ぐ、と髪を後ろに引っ張られて、顔を至近距離まで詰められて。

「俺の許可なしに、勝手に行動するんじゃねえよ」


今は、俺の所有物だと

今は、自分のものなのだと、主張するように、刻み込むように。


かちゃり、首に感じたかすかな重み。

目の前の男は、ただ、笑った。


「つなぎを着ているときだけじゃなく、これをつけているときも、自分は所有されているんだと、自覚しろ。」


ようやっと離れた距離、おろした視線の先。

銀色で細工された、目の前の男のマークが、そこに刻まれていた。


























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