ドリーム小説
花嫁修業 船長
トラファルガー・ロー
夏島だろうともっこもこの帽子をかぶる変人。
オペオペの実という謎すぎる能力を持ち、自身も医療の道に精通する男。
死の外科医、という異名を持つが、その割に、仲間大好きな男だったりもする。
クルーはすべて自分の所有物だと口にする彼は、クルーに手を出されたらだまっちゃいない。
だって、(仮)のクルーである私だって、守ろうとしてみせるのだから。
自分のものに手を出されるのは気に食わない。
俺のものに手を出していいのは、俺だけだ。
口には出さないけれど、その瞳は常にそう告げていて。
ハートのクルーたちが、慕う理由がわかる気がした。
そしてそう思うことはつまり、私だって彼に、彼らに解されているということで___
戦闘が、あった。
敵は強くも弱くもなく、ただどちらかというと人数が多いので面倒、くらいな感覚。
コックではあるが、戦闘となれば心は躍るわけで。
台所の戸締まりと火の元を消して、颯爽と甲板で敵をなぎ倒していく。
トラファルガーは自分が手を出すまでもない、と判断したようで、船際でもたれながら戦いを見ていた。
あっさりと、終結して、お宝を回収して、すべてが終わる。
はずだった。
ただ、一つだけの誤算をのぞいて。
苦し紛れに最後に投げられた刃。
それは、トラファルガーをねらっていて。
しかしながらその刃の軌道上に対応できるクルーはおらず、トラファルガー自身もあっさりと能力で回避する、はずだった。
「・・・あ?」
ぐさり
響いた嫌な音。
クルーの息をのむ声と、敵の愉しげな笑い声。
誤算は一つ。
相手が海楼石の刃を手に持っていた、こと。
そして___
「キャプテン!」
ハートの海賊団船長はふらり、後ろに重心を傾けて、母なる海へと身を落とした。
頭が認識するよりも先に、体が水に触れていた。
水の中、無音の世界。
ゆらゆらと暗い世界へと引き込まれていく一人の男。
暗闇へ堕ちていく、もふもふの帽子
悪魔の実を食べた人に与えられる、超人的能力以外の特権。
世界に絶望したときに、世界から逃げることができるように。
母なる海に、還ることができるように。
不死鳥のあの人にも、終わりが等しく訪れるように。
海は、すべてを抱きしめる。
でも、その人には、まだはやい。
ぐ、っとつかんで、必死に光り指す方へと泳ぐ。
まだ、つれていかせるには早い。
この人は、まだ、世界に絶望してはいない。
あなたには、まだ、あげない。
「__っふはっ、」
海の暗さと反比例するように明るすぎる空。
必死に重たいからだをだきかかえて、息を吸わせる。
「!船長!!」
シャチが飛び込んできたのをみて、彼を預ける。
そうしてもう一度水中へと戻り彼のもふもふの帽子をつかんで船へと戻った。
けほけほと水をはくトラファルガーの元へ足を進ませて、彼の前に、立つ。
そうすればゆるり、けだるそうな瞳がこちらに向くわけで。
「・・・おまえが俺を助けるとは思わなかった」
ぽつり、呟かれた言葉に、ぶわり、感情が、高ぶった。
この人は、私を、いったいなんだと、おもっていたのか。
ふりあげた、手。
しばいたのは頬。
赤く染まるそこと、かすかに開かれる瞳。
ざわりとした、周囲。
「私が、私がいつまでも乗りたくない船に乗っていることのできる性格だとでも??」
ぐっと握りしめた手が、痛い。
「私を勝手にこの船に乗せておいて、そんなことを言うの?」
でも、それ以上に、心臓が、いたい。
「私は、海賊だよ。思うままに生きているのに、この場所にいることが、私の意志であることを、疑わないで!」
トラファルガーの胸ぐらをつかんで、叫ぶ。
その瞳に写る自分が、必死すぎて、少しだけ感情が落ち着きを見せた。
「私にマークをまとわせたのはあなたでしょう?」
トラファルガーの手が、私の首に触れる。
するり、ハートの海賊旗をかたどったペンダントが引っ張り出されて。
「俺に、忠誠を誓う気になったのか?」
ぐ、っとペンダントを引っ張られる。
今度は私が胸ぐらを捕まれたようになって。
「言ったでしょう?」
ごつん、少しだけ強めに額をぶつけて笑ってみせる。
「私が忠誠を誓うのは、船長だと認めるのは、海賊王にしたいのは、たった一人。」
偉大なるおやじ様。
大切な家族たち。
それでも、それでも、
「この印をまとう限りは」
このつなぎを、ペンダントを身につけている限りは
「私はあなたのクルー。」
深い深い、それでも優しい瞳の色。
「私がここにいる限りは」
あなたが私をここに導いたのだから。
「あなたを死なせはしない。」
トラファルガーの瞳を、まっすぐに見つめて、笑う。
「あなたを守りますよ、ロー船長。」
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