ドリーム小説






花嫁修業 家族















「サッチ、って、誰だ?」



我らが親父に喧嘩を売ってきた炎の少年。

からだをぼろぼろにしながらも必死に抵抗を続けた彼に親父は手を、のばして。




ようやっと反抗期を終えた末っ子はもぐもぐと絶えず口を動かしながらそうのたまった。






「ああ、そういえばエースが来る前だったな、がでていったのは。」

エース用に追加のチャーハンを作りながら答える。

脳裏に浮かぶ小さな体。

腕はいいのだが、いかんせんこの場所では体が小さすぎて隅っこに追いやられて。


食事と食事の短い間を使って自分の腕の工場に勤めていたけなげな少女。


俺の、四番隊の大事な大事な末の妹


彼女がけ見聞を広めたい、そんな言葉で船をでていったのはちょうどこの末の弟が喧嘩を売ってくる前。

そうか、もうそんなにたつのか。


大事な大事な妹は、ちゃんと元気にやっているのだろうか。


思わず笑みが浮かぶ。

それに小さく首を傾げるエース。



はな、俺の隊の、四番隊の大事な末の妹だ。」


「え、サッチの隊に女の子がいたのか?」


きょとん、そんな表情を浮かべながらエースは先を促す。


「サッチの隊にはもったいないくらい、素直ないい子だよい。」


聞いているだけだったマルコが新聞から目を離さず言葉を続けた。


「おお、まじで?会ってみてえ!どこにいんの?」


目を、それこそきらきらさせてエースは身を乗り出してくる。

好奇心旺盛とはこのことだろう。


「あーどこにいるんだろうなあ・・・。」

あ、明らかにしょんぼりした。

弟と言われ続けるエースにとって、妹、というのは魅力的だったんだろう。

「・・・いつかえってくんだ?」

これに対して俺は、答えを持ってねえ。

苦笑してみせればふにゃり、さらにエースの眉が下がった。

「見聞を広める、そう言ってでていったからなあ・・・」

「あ?」

俺の言葉に反応したのはマルコ。

何だ、と目をそちらに向ければ、我らが長男は珍しく視線を漂わせていて。

「なんだよ、マルコ」

「あー・・・サッチ、おまえにはそう言ったのかよい。」

なにが言いたい?そう視線で訴えればがちり、目があった。

仕方がねえ、そういいたそうなため息。

そして、にい、とあがる口角。

「でていった理由、一つは俺だよい。」

はあ?こいつはいったいなにいってんだ?

「見聞を広める、立派な理由じゃねえか。」

ほかにどんな理由があるってんだ?

マルコはますます楽しそうに、笑った。


「親父には花嫁修業っていったらしいよい。」


一瞬、フリーズ。


頭に沸き上がる、かわいいかわいい妹の笑顔。


ちょっとまて、つまり、それは、つまり、



「なんでそれがおまえのせいなんだ?」

エースの言葉。

ああ、やめてくれ、なんとなく、わかってしまった。


あの妹がずっと視線で追っていた意味を。


「もっといい女になったら考えてやる、そう言ったからねい。」


「マルコオオオオオオ!!」


俺の大事な妹の告白を受けないくせに、将来を見越してはなしてやらねえとか、おまえ、本当に、何様だ!?


フライパンを放り出して、マルコの胸ぐらをつかもうと足を一歩踏み出して、


その瞬間、こんこん、と小さくドアの音。


興奮した頭でそちらを見れば、ドアに寄りかかり自分の存在を主張するかのようにノックする着物の男が一人。

艶やかな笑みに深い色の髪を揺らめかせて、それはそれは楽しそうに笑う。

「あ、イゾウ!」

末っ子が名前を呼べば、ふわり、さらに笑みは深まり。

一歩、足を踏み出して俺とマルコの間にするり、入り込む。

「怒りなさんな、サッチ」

俺に話しかけながら、なぜか懐をごそごそと漁る。

「せっかくの男前が台無しになっちまうぜ?」

その言葉には多分に笑いが含まれていて、決して本心ではないことが伺えて。

どいつもこいつもなにが言いたい。

がさり、音を立ててイゾウの懐から現れたのは一枚の紙。

ぴらり、目の前に開かれたそれに反射的に目を通す。


「なんだよ、イゾウ。ただの新星の、手配、書___?!」

目つきの悪い隈男。

その後ろにかすかに見えるのは、白熊の後ろ姿。

そしてその白熊に荷物のように担がれるオレンジ色のつなぎをきた人物。


それは、どうみても、今話にあがっていた、俺の大事な大事な妹の、姿で。

「これ、おまえんとこのおひめさんだろ?」

イゾウの言葉にマルコが、エースがひょこり、同じようにのぞいてきて

「ちょ、なにしてんだよ!!!」


写真に向かって叫ぶがまあもちろん返事などはなく。

「ほぅ、おもしろい花嫁修業だよい」

面白そうなマルコの声。

俺にしてはなにも面白くなどない。


「花嫁修業?なんさね、それ。マルコ、詳しく。」


イゾウが至極まじめな顔でマルコに尋ねる。

心の底から楽しそうだ。


「あれー、俺こいつ知ってるわ。」

黙っていたエースが思い出した、とばかりににぱり、笑った。


エースの衝撃発言にもう頭がついていかない。



というか、本当に俺んとこの大事な大事な末の妹はなにをしているんだか・・・





まあ、どんな形であれ元気な姿が見れたことにほっとした。
















※※※
花嫁修業に出発してからしばらくの家族。
心配性なお兄ちゃんと妹に会ってみたい弟。
マルコさんイゾウさんは完璧に面白がってます。
ついでに時間軸は結構適当。
結構本編より先の話なので番外編で。






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