ドリーム小説
「だっけか?」
月明かりの下、訪ねられた名前。
それに小さくうなずき返せば、にかり、太陽みたいな笑顔。
「俺を、助けてくれたんだよな?」
それに対して肯定も否定もしないでいれば、伸ばされた手が、くしゃり、頭をなでる。
暖かな手のひらに、つめていた息を、小さくはく。
そうすれば今度は楽しそうな笑い声。
ちらり、相手をみれば、それはそれは、幸せそうな表情があって。
想像もしていなかった表情に思わず息をのむ。
そうすればその人はゆるり、手をおろして。
「俺よりもずっと長いことここにいるって聞いた。」
紬だされる言葉は、返事を求めていないように思えて。
「ナースたちの中で二番目に長いって。」
放れていた手が、今度はそっと頬に。
「でもナースにかわいがられるのがわかった気がする。」
そしてゆるりと喉元に。
急所のはずのその場所に、手を当てられても、なぜだか体は拒否を感じることはなく。
「おまえ、妹みたいだ。」
優しく喉元をなでる手。
まるで猫をあやすように。
気持ちのいいそれにそっと目を細めれば、相手もやっぱり優しく笑う。
妹、だなんて、いえるような年の差じゃないのに。
おとうと、であるはずの年齢なのに。
お兄ちゃんと呼びたくなるだなんて。
でも、よべはしない。
私は弱い。
きっとこの船に乗る人たちの中で、いろんな意味で一番、弱い。
だから、私は、この人を、家族だなんて、いえない。
「ごめんなさい。」
妹だと言ってくれることは、とてもうれしいけれど。
私はそれに答えられはしない。
「きっと怒るだろうけど、私にとって、家族は、ナースさんたちとドクターと、親父様だけなんです。」
私が守れる精一杯の中に、この人は、入れない。
あの青く気高い不死鳥ほど、私が守らなくていい人じゃないと。
私は、これ以上大切なものを、増やしたくなんてない。
なのに、この人はやっぱり笑って告げる。
「じゃあ、家族になりたい。」
私ができないことを、おそれることを、簡単に飛び越えて。
この人は簡単に言葉を紡ぐ。
「、俺はおまえの、お兄ちゃんだ。」
距離がゼロになる。
誰よりも熱い体温に、ぎゅう、と包まれる。
「おまえに守られるほど、俺は弱くない。逆に俺がおまえを、守ってやるから。」
必死で隠す心を、この人は簡単に暴いていく。
ひどく意地悪で、嘘つきで、優しくて、強い、人。
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