ドリーム小説
ざわりざわり
深夜だというのに、ざわめきはひどく。
それは胸騒ぎと同時に私の部屋まで届く。
じくじくと痛む心臓。
緊張を越えた緊張は、逆に落ち着きをもたらして。
治療道具をかばんにめいいっぱいつめて、何があっても対応できるように、と立ち上がる。
音を立てず、開いた甲板への扉。
そこには、人混み。
隙間から見える、赤が、事態の深刻さを物語る。
「サッチ隊長が!!」
聞こえた名前。
この船の隊長さんの名前。
おいしいご飯をいつだって作ってくれる優しい人のもの。
私の家族たちが、大切に思う一人。
「っ、をっ!!」
ナース長の焦った声。
呼ばれたのは自分のもの。
立ち上がるナースたち。
彼女たちが私に向ける信頼が、愛しい。
いつだって笑顔の彼女たちの表情が、恐怖にひきつっている。
目の前で流れていく命に、おそれが、広がる。
でも、大丈夫。
「私は、ここにいます。」
音を立てぬまま、ナース長の横へとしゃがむ。
ナースたちがかすかに私の名前を呼んだ。
でも、かまっている暇は、ない。
ひどい出血。
雑な切り口。
すぐそこまできている、死神の足音。
このままじゃ、死んじゃう。
でも、私は、それを、許さない。
瞬時、判断する、治療への最短方法。
「エリー、ミモザ!」
呼んだ名前はかわいがってくれるナースたちのもの。
でも、今は、私が指示を出す。
「輸血をする。必要なものを医務室にセットして。」
すぐさま彼女たちは動き出す。
治療道具がいっぱいの鞄を開いて、とりあえずの止血を。
ちらり、目に入った赤い色。
私の、お兄ちゃんになると言ってくれた優しい人。
「エース隊長。サッチ隊長を医務室に。」
あわあわとしながらも言ったとおりに動き出してくれる隊長さん。
そして、金色に。
「隊長。」
「よい」
すぐに帰る返事に思わず笑みが浮かんだ。
列挙する、記憶の中の同じ人。
「誰でもいい、今の人たちを、医務室に。サッチ隊長を、救える可能性を持つ人たちだから。」
「サッチと同じ血液型かい。わかった。」
何もいっていないのに伝わることにほっとして。
サッチ隊長と同じ血液型の人。
サッチ隊長を助けられる可能性を持つ人たち。
大丈夫、大丈夫、まだ、救える。から。
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